第8階 期待の挑戦者
日が傾き始めた頃。
目を覚まし、ソファーに座ったゼノはクラリスが作った朝食兼昼食をもそもそと口に運びながら眠い眼を擦る。
常に表示されているダンジョンの映像に目を通す。
「侵入者?」
「はい、マスター。団体の挑戦者が侵入しています」
映像で見た4人組は、丁度ダンジョンの5階層に挑戦していた。
赤髪の短髪、壮年の男性は傷の入った銀の胸当てに背の丈を越えるほどの大きな剣を背負っている。
もう一人の男性は若い。右手に片手で持てる程度の剣、左手に胸を覆う程の大きさの盾を持ち先頭になってパーティを引っ張っている。
残りの2人は女性。
小さい手持ちの杖を持ち、白を基調とした青いラインの刻まれた上下一体となっているコートを身に着けている長い金髪の女性。
最後の一人はこの場に似つかわしくない幼い少女は黒いローブを羽織り、胸元で宙へ浮いた本に目を通しながら歩いている。
4人は既にダンジョンの戦い方に慣れたのか、もしかしたら過去にそういった戦い方をしたことがあるのかもしれない。
パーティ全体で引きながら魔法で牽制を放ち、近づいてきたモンスターを前衛組が切り倒していた。
「早いね」
「マスター。今までの挑戦者の中では最速の攻略速度です」
「本当? すごい」
攻略のペースは間違いなく早い。モンスターの処理も素早く、的確だ。
しかも今までの挑戦者とは違って、階層を進みながらダンジョンを入念に調べている。
いつもは冷やかし程度に登ってはアイテムを持って帰る程度だった。
ちなみに、倒されて放置されたモンスターは他のモンスターが食べている。
特にスライムは欠片も残さず食べてくれるから、ダンジョン内は常に清潔なんだとクラリスが教えてくれた。
血液だったり肉片だったり、小さなものだったらダンジョン自体がまた吸収してくれるんだけど時間がかかるからスライムは欠かせないモンスターだ。
「落ちてたポーション飲んでる」
「マッピングに力を入れているようですね。戦闘面でも安定して立ち回っています」
舐めて傷が多少治ったことを確認したら、それ以降拾ったポーションを普通に飲んでいる。
ブルーポーションは飲めば魔力が回復することが分かった時は、女性陣が興奮していた。
反応をみると、魔力を回復させるアイテムはみんな欲しがりそうだ。
「探索は慣れてそう」
「階段も良く見つけていますね。運も良いようです」
優秀。
アイテムの使い方はわかってもらわないとダンジョンの良さもわかってもらえない、ダンジョン攻略にも大事な要素。
「転移水晶も見つけたね」
初めてのダンジョン挑戦で転移水晶を見つけられたみたいだし、やっぱり運も良い。
宝箱から見つけた手のひらサイズの水晶を手にはもって見るものの、使い方がわからないのか全員が首をひねっている。
「あ」
「落としましたね」
黒いローブの少女が受け取ろうと手を伸ばすが、若い男性が手を滑らして床に落下、そのまま割れてしまう。
その瞬間に空間がねじれ、一瞬でパーティ全員を巻き込んでその場から消えてしまった。
あっという間でダンジョンの入り口に巻き戻された4人の唖然とした顔が映像に映し出される。
「すごくびっくりしているね」
「鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていますね」
しばらく話し合っていた4人だが、攻略を進めることに決めたのか、再びダンジョンへ戻っていった。
ものの数十分で元の階層までたどり着いた彼らは、そのままの勢いでどんどん階層を登り続ける。
外で日が暮れる頃には、彼らは14階層の見晴らしの良い階段前で休憩をとっていた。
時々襲い掛かるレッサーウルフも、彼らにとってはゴブリンと変わらないようだ。
複数のレッサーウルフに襲われても、それぞれ個人が難なく対処している。
「このまま20階まで行きそうかな」
「マスター。階層を追加しますか」
「……まだいいかな」
「かしこまりました」
流石にスライムキングには敵わない……はず。
もし、スライムキングが負けるようなら最後はクラリスに出てもらおう。
戦ってるところ見たことないけど、あの挑戦者達を蹴散らせるくらいには強いと察することができる。
魔法を使いこなす女性陣を見て、その迫力を目が追いかける。
火の魔法は当たると爆発するため、見た目も音も大きく派手だ。
「……魔法、使いたい」
「魔法、ですか。」
魔法が使えるようになるなら使いたい。
今の所、戦う手段がモンスターに戦ってもらう方法しかない。
それに、戦うこと以外にも便利な魔法がありそうだし。
「教わりたい」
「教えてくれる相手がいるでしょうか」
「クラリスは魔法が使えないんだよね?」
頷くクラリス。
魔法を使えるようになるのはまだ先かな……。
「分かりました。魔法に関する教育機関等、調査の対象に加えておきます」
「うん、お願い」
と、言っても今はダンジョンが最優先。
魔法はしばらくお預けだ。
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