第4話(1) カチカチ山の恨みがある
◇
ぼんっと、爆発音が岩屋の中に響き渡った。
「嘘でしょ! 時間通りにやったのに、こいつ爆発しやがった!」
狸の前には、悲惨な電子レンジ。温めたレトルトカレーが元気いっぱい、庫内に飛び散っている。
「いっきに三つまとめて温めようと横着したからだろう。私は一応、止めたからな」
「もうこれで、ボクのこといえないね!」
「君はゆで卵つくろうとして卵突っ込んだだろ! 初歩中の初歩のミスだよ! 人間のくせに文明の利器も使いこなせないで! 君と一緒にしないでほしい」
「見苦しい。私からすれば、同じ穴の狢だ」
悔し紛れに叫ぶ狸に冷たく狐は言い放つ。
「ちくしょう、薄々自分でも思ってたよ! どうせ狢だよ! 狸だよ!」
「ねえ、でも実際のところ、狸的にはアナグマやハクビシンとまとめられるのってどうなんダイ?」
「区別しろよ、全然違うだろ、って思う」
「どうでもいいからそのカレーまみれの電子レンジを掃除しとけよ」
優雅に椅子に腰かけたまま、狐は言う。その正論に狸は憎々しげにキッチンペーパーをむしり取った。
「でも夕飯どうするの~。レトルトカレー全滅だよ~。ライスはわんさか炊けたのに~」
致し方なく掃除に着手しだした狸のうしろで、でかい図体でちょろちょろと、手伝いもせず動き回って青年が問う。そのうっとうしさに、狸は彼の脛を蹴とばした。
「狐。米だけあふれてるんだから、なんかありあわせの適当なものでチャーハンでも作ってよ」
「なんで私が……。夕飯当番のくじを引き当てたのはお前だろうが」
眺めていた株価チャートから視線をあげて、狐が顔をしかめる。
「俺は掃除で忙しい。こいつは絶対食べ物を生み出せない」
「オウ! ひどい評価!」
「実績だろ」
脛をさすりながら唇を尖らせる青年に狸は言い捨てる。
「面倒だ。人間、米は適当に小分けにして冷凍しておけ。デリバリーにすれば、なんでも届く」
「労力を金で買いやがる」
携帯に長い指を滑らせた狐に、狸は舌打ちした。
「でもこんな山奥まで宅配イーツしてくれるのカイ?」
律儀に炊飯器から米を冷凍用に小分けにしながら、青年が問う。さすがにそれぐらいはできるように仕込まれたらしい。
「都心部の私の事務所に、ここの出入口を繋げば問題ない。夕飯時は
「逢魔が時をお手軽デリバリータイムみたいにいうなよ」
狸のぼやきを右から左に流した銀色の狐耳は、そのまま何やら勝手に頼みはしてくれたらしい。
やがて繋げた狐の事務所あてに届いたのは、たぬきうどん、きつねうどん、肉うどん。それらをずるずるしながら、三人は食卓を囲んだ。
「で、どうすんだよ」
つるりと天かす付きのうどんをすすりながら、どこか不服げに狸が尋ねる。
「やっぱり怒られたじゃん、死体遺棄」
「ボク、あんなマフィアみたいな兎、初めて見たヨ~!」
青年が興奮気味にフォークを振り上げる。
そんなふたりをちろりと見やって、狐は無言できつねうどんをすすった。
話は、今日の昼過ぎに遡る。
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