第13話 初めての夜
ルシフェルが立ち去ったことでようやく息をついたアルファはマリアを放そうとした。しかしマリアはアルファの服を掴んで離れなかった。仕方ないとマリアをそのままにアルファは歩き出し、箱舟の設計図に手を伸ばした。そのまま拾い上げると、パラパラとめくってみるのだった。
「うん、当たり前だが僕にはよくわからないな」
「それ、どうするんだい?」
「そうだな……。確認も取らずに陛下に献上するわけにもいかないし、知り合いの船大工に見てもらおうと思う」
「そうか、ぼくは疲れた。ベッドまで運んでくれるかい」
その言葉に戦ったのは僕だぞ、とアルファは一瞬思ったが、すぐにマリアが本当に疲れていることに気づいた。
「……疲れるのか? “リエゾン”は?」
「まあ、魔力を持っていかれるからね」
アルファは、服を掴んだままのマリアを横抱きで抱え上げる――いわゆるお姫様だっこだ――。その身体は小さく、弱弱しかった。そのままゆっくりとアルファは屋敷に向かって歩いていく。きっと今頃、戦いに気づいていたが主人を信じて待つ道を選んだアリスが泣きそうになっているだろうと思いながら。
「なあ、旦那様」
「なんだ」
「……今夜からは、一緒のベッドで寝てくれるかい?」
マリアはアルファの服をより強く握り、その顔をアルファの胸にうずめるようにした。彼女にとっては勇気のいるお願いだったようだ、とアルファは思った。だから短く答えた。
「ああ」
その答えが聞こえたのか否かはわからなかったが、マリアは寝息を立て始めた。疲れが限界にきたらしい。アルファの静かな歩みは止まらず、すぐに屋敷とアリスが見えてきた。
「閣下! ご無事ですか!」
アリスもアルファを視認すると、まず危険がないことを確認してから駆け寄ってきた。この癖は、アリスがアルファに仕えるようになったばかりのときに起きたある事件によって身についたものだ。
「ああ、天使同士の小競り合いに巻き込まれただけだ。マリアも疲れているだけだから安心しろ」
「良かった……」
「僕たちは寝室で休む。アリス、お前ももう休んでいいぞ」
「はい……。閣下」
アリスは玄関のドアを開けてアルファを待ちつつ、ささやくように言った。
「お命を散らせるような真似は、どうかしないでください」
「この命は皇帝陛下のもの、簡単には捨てないさ」
主従はそう言葉を交わすと屋敷に入り、そしてアルファの寝室前で別れた。
「おやすみなさいませ、閣下」
アリスはそう言って頭を下げてから、ゆっくりと寝室のドアを閉めた。アルファはまた一息つくと、マリアを先にベッドに寝かそうとした。したのだが、彼女が強く服を握りしめていてできなかった。仕方なくアルファは、着替えずにマリアと一緒にベッドに入ることにした。安らかな寝息を立てるマリアを見ると、アルファも少しだけ笑顔になった。しかし彼は、すぐに表情を引き締める。
(“リエゾン”を使っても、手も足も出なかった。もっと強くならないと……。そうだ、昔才能があると言われたあれを……)
そんなことを考えている間に、アルファもいつしか眠りについていた。前衛で戦う彼も、当然疲れていたのだ。アルファとマリアは、初めて抱き合って夜を過ごした。
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