4-3:愛の力
守さんが元の人の姿に戻れたので今日も朝から銭湯の業務の為右往左往している。
「朝ごはん出来ました! はい、お義母様、お義父様、守さん!!」
ご飯をよそってお味噌汁を渡して朝食をとる。
この後すぐに朝の湯を開かなければならない。
「ほう、今朝は鮭の塩焼きか。うむ、今朝もかなめの飯はうまそうじゃの」
「儂、この鳥そぼろ好きじゃ」
「おいしそうだね、いただきま~す」
湯本家の面々はそう言って朝食をとり始める。
私も朝食をいただきながら時折おかわりの要望に応えてご飯をよそったりお味噌汁を追加で入れたりと、相変わらずの食欲旺盛を目の当たりにする。
なんか心なしか守さんもたくさん食べてくれるようになった気がする。
「ふう、美味しかった。ご馳走様~」
「お粗末様でした。はい、お茶です」
食器を片付けながら入れたお茶を守さんに渡す。
と、何となく守さんのお腹に目が行く。
「……守さん、なんか最近お腹出て来てませんか?」
「え? そうかな? あ、でもちょっとベルトがきつくなったかも……」
守さんはそう言ってお腹を擦る。
するとお義父様やお義母様もつられてお腹を擦っている。
「ふむ、確かにここ半年以上毎日うまい飯を食わせてもらっておるから少し腹が出てきてしまったやもしれんな?」
「儂、毛並みがすこぶるよくなった。じゃけど、確かにお腹も出てきたのぉ」
お義母様もお義父様もそう言ってお茶をすする。
いや、たくさん食べてくれるのは嬉しいけどそれってまずいんじゃ?
私は守さんと一緒になってもいろんな意味で忙しかったので結婚前と変わらないけど、湯本家の皆さんは確実に太って来ている。
もしこのままいくと……
「駄目だわ。そんなのっ!!」
線の細い守さんがブクブクのお腹になっちゃう!!
物の怪になってもあの筋肉質のたくましいのがブクブクになっちゃったら!!
だめだ、このままじゃ!!
「……ダイエットです。皆さん今日のお昼からご飯調整です!! これ以上太ったら大変なんですからね!!」
「「「えぇ~」」」
見事にお義母様もお義父様も、そして守さんも声を合わせて不満そうに言う。
でもこれは今から是正しないとダメな事。
とにかくブクブクは嫌ぁっ!!
私は絶対にダイエットさせると心に誓うのだった。
* * *
「あの、かなめさんお昼ご飯ってこれだけ?」
「そうです。ちゃんと栄養バランスは考えてますから大人しくこれ食べてください!」
お昼ご飯はそうめんにした。
勿論おかずにはおひたしや茄子とかの煮物もある。
但し油っこいものとかお肉類は控えた。
「儂、てんぷらも喰いたかったのぉ~」
「うむ、油揚げも欲しかったのぉ」
早速お義父様とお義母様も食べたかったものを言ってくる。
しかし毎回お肉や油揚げとか油っぽいものばかりでは栄養バランスも悪いし、太る原因でもある。
「最近お肉と油揚げとかの油っぽいものが多すぎました。頻度を減らしますから大人しくお昼ご飯食べて休んでください」
私がそうぴしゃりというとお義母様もお義父様も仕方なく大人しくそうめんをすすり始める。
勿論守さんも。
「あれ? そうめんこれで終わり??」
「そうです、これでも一人一束分はありますから十分な量です。たくさん食べてくれるのは嬉しいけど、食べ過ぎてブクブクに太っちゃうのはだめです! 私、ブクブクになった守さんは嫌いですからね!」
つんっ!
そう言って明後日の方向を見ると守さんは慌てて「わかった、わかった、ごめん。ご馳走様」とか言って後片付けを手伝ってくれる。
ちょっと心が痛いけど、これも皆さんの健康の為、現状維持の為。
とにかく一家みんながブクブクになっちゃうのだけは避けなければ!!
私はそう思いながらお昼ご飯の後片付けを始めるのだった。
* * * * *
「お義母様、番頭変わりましょうか?」
「おや、そうかい? じゃあお願いするよ」
そう言って齢七十歳くらいの好々婆に化けているお義母様は番頭から降りる。
私は代わりに番頭に上って、接客を始める。
「なぁ若おかみさんよ、今日は狐様何か有ったんかい?」
「はい? 特に何も無いはずですが……」
鬼女さん事、識さんがコーヒー牛乳のお代を持って来ていた。
きゅポンっと栓を開けてコーヒー牛乳を半分くらいまで一気に飲んで言う。
「ぷはぁ~、風呂上がりのコーヒー牛乳は格別だなぁ! で、なんか今日はさ、番頭に座っていた狐様が元気なかったんでな」
「お義母様が? どうしたんだろう??」
識さんの話だとお義母様が元気ない?
何か有ったのだろうか??
後で聞いてみよう。
私はその時はその程度にしか考えていなかったのだった。
* * * * *
「はぁ~」
数日後、お昼ご飯時に守さんが深いため息をついていた。
お昼ご飯は肉抜きゴーヤチャンプルと野菜の煮物。
お義母様やお義父様も同じようにため息をついている。
「あの、どうかしましたか?」
「ん、なんでもないよ……」
守さんはそう言ってお昼ご飯を食べ始める。
最近心なしかおかずが少し残っていたりもする。
それはお義母様もお義父様もだ。
私が作ったお料理は食べてはくれるのだけど、以前のようにお皿を舐めるようにきれいには食べてくれない。
ゴーヤの程よい苦みを感じながら肉無しにしたゴーヤチャンプルをご飯にかけながら食べている私。
しかしみなさんの動きは遅い。
「あの、もしかしてお口に合いませんでしたか?」
「いや、かつおだしが利いていてうまいぞ」
「儂、ゴーヤは平気じゃもん」
「かなめさんのご飯はいつも美味しいよ……」
なんか皆さん覇気が無い。
一体どうしたんだろう??
私がそう思っていると守さんがまだおかずも沢山有るというのにお箸をおく。
「ご馳走様でした」
かちゃ
「馳走になった」
「ご馳走さまなのじゃ」
するとお義母様もお義父様も同じく箸を置く。
ええぇ?
まだまだいっぱいおかずがあるというのに皆さんお箸を置いた??
「あの、何か良く無いところでもあったのでしょうか?」
思わず私は湯本家の皆さんに聞いてしまった。
するとお義母様もお義父様も、守さんまでもが顔を見合わせ大きくため息をついて首を振る。
「何でもないよ。それじゃぁちょっと仮眠するね」
守さんはそう言って向こうへ行って横になってしまった。
お義母様やお義父様も狐やヨークシャテリアの姿になってうずくまって休んでいる。
私は仕方なしに残りのおかずを平らげ、後片付けを始めるのだった。
* * * * *
「かなめさん、かなめさん! お湯が出ないのよ、ちょっと見て来てくれる?」
「はい? 分かりましたすぐに確認してきます!!」
番頭に立っていたら雪女事、雪子さんが慌ててやって来た。
まさかタンクの湯が終わってしまったのだろうか?
私は慌てて裏方の方へ行って見るとぐってりとした守さんとお義父様がいた。
「守さん! お湯出てないってお客さんが言ってますよ!!」
「え? あ、ああっ! しまった、湯釜のバルブ開いてなかった!! 父さん!!」
「おぉ、しまった、すぐにバルブを開けてくれ守!!」
守さんとお義父様は慌てて湯釜から沸いたお湯をタンクへ流し込む。
温度計を見て水で薄めて適温にする。
「ふう、ごめんごめん、これでお湯が使えるよ」
「大丈夫ですか、守さん??」
なんか最近元気が無い。
いや、それはお義母様やお義父様も同じだ。
「うん、大丈夫。ちょっとぼぉっとしちゃた。ごめんね」
そう言って薄い笑をする。
うーん、なんかおかしい。
私は守さんの前まで行って面と向かって言う。
「一体どうしたっていうんですか?」
「あ、いや、その…… ちょっとお腹がすいちゃって……」
「はぁ?」
晩御飯はしっかり食べてた。
あれから数時間しか経っていないのにお腹が空いた??
「えっと、まさかお義父様も??」
「うん、儂もちょっとお腹が空いたのぉ。出来ればもう少し精のつくもんが喰いたいのぉ」
そう言いながらへたりと椅子に座り込む。
その様子を見て私は考え込む。
最近は野菜をメインにして食事を作っていた。
以前は肉や油物が多かったので、そこを改善したのだけど……
もしかして物の怪って結構と高カロリーなモノがないとダメなのかな??
そう言えば最近守さんが夜に私の事を夜可愛がってくれない……
しまったぁ!
ダイエットさせるために制限してたのが裏目に出たか!!
まずい、このままじゃ夫婦の関係にも問題が生じる。
「わ、分かりました。それじゃぁお夜食作りますから終業時間まで頑張ってください」
私がそう言うと途端に目を輝かす守さんとお義父様。
やっぱりそう言う事か。
食事制限がかなり堪えていたんだ。
仕方ない。
私はとりあえず雪子さんにお湯が使える事を伝えに行くのだった。
* * *
「ラーメンうまっ!」
「チャーシューがこんなに入っておるのじゃぁ!!」
「儂のには豚の角煮が入っておる~。儂豚の角煮大好物」
銭湯の終業になって、最後にお風呂をいただいてからお夜食を作った。
スーパーで売っていた濃厚とんこつ味のラーメン。
こんなのお夜食で食べたら確実に太っちゃう。
でも守さんも、お義母様もお義父様も飛びつくように食べている。
「はぁ、分かりました。でも毎日はだめですよ。皆さんやっぱりお肉や油揚げ、油物が無いとダメみたいだからニ、三日に一度だけそう言ったお料理にします。でもご飯のおかわりは二杯までですよ? 良いですね?」
私がそう言うとみんなそろって首をぶんぶん縦に振っている。
まったく、うちの家族ときたら……
私は呆れながらラーメンを美味しそうに食べるその様子を見るのだった。
……その晩久しぶりに守さんにたっぷりと可愛がってもらっちゃった♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます