第4話

 執着、憧れと言ったものに近いのかもしれない。舞台俳優を見て悲鳴を上げる令嬢達のようなもの。私はダレンに対してそんな感情を抱いていたのかもしれない。

 そこに安らぎも、許しもなかったのだもの。


「でも、感情は本物だっただろ?」

「……そうね……」


 決して否定する事のないガラルの言葉に、もどかしさを覚える反面、安堵感もある。

 この安心した時間が好き。そのままの私で居られて、受け入れてもらえる。そして……多分ガラルが何をしようと今更!と笑ってしまう自信もある。近すぎて、気がつけなかっただけなんだろう。

 思ってしまえば……人間というものは単純なのか、胸の鼓動が早くなったりもするわけで。


「私、ガラルがいなくてはダメみたい」

「は?」

「とても大切な存在だって気がついて」

「へ?」


 間抜けな顔で茫然とこちらを見ているガラルが、何か可愛らしく思える。けれど伝えたい言葉を伝えようにも、今まで全てを曝け出してきていたけれど、こうなると羞恥心とかがこみ上げてきて、顔に熱が集まるのが分かってしまう程だ。


「本当に愛情的な意味で好きなのは貴方みたい……」

「……マジかよ~……」


 何とか振り絞って言った言葉に、何故かガラルが脱力している。え?え?やっぱり軽いとか迷惑だとか思われてる?今までずっとダレン、ダレンと言ってきていたし、何をどう言おうと伝わらなくて当たり前かもしれない。

 そう思って悲しくなるも、自分に泣く資格なんてないわけで……でもガラルの口から出てきたのは予想外の言葉だった。


「どうせ結婚するんだから気持ちは後々って思ってたけど」

「え?」

「想い合ってるなら、もう遠慮しないよ」

「!?」


 にっこりと、悪戯っぽく言うガラルに胸を射抜かれる。

 というか……それって……まさかずっと?ガラルはずっと私が好きなのに、あんな話を聞かされていたの?

 一斉に血の気が引くのがわかったが、それにガラルも気がついたのか言葉を紡いだ。


「結婚するのは決まってたからね。焦ってはなかったよ?ほら、こうやってちゃんと囲い込めたでしょ?」

「ガ……ガラル!?」


 結婚するのは自分とで、義理とは言え弟がどうこう出来る問題じゃない。

 政略結婚が当たり前の貴族の中、幼馴染で好きだった愛らしい少女が婚約者となり、正直嬉しい限りだ。出来れば気持ちも欲しいけれど、それは結婚してからでも遅くない、今は存分に楽しんでいてくれれば良いなんて思っていた。

 だって、聞いていると舞台俳優に憧れる令嬢のような感じで、そこに深い愛情が見えなかったから。弟を可愛がっている、そう思えば嫉妬が沸き起こる事もなかった。

 面白くないのは事実だったけれど。

 貴族令嬢の仮面を剥がし、いくらでも義弟の話を聞くよ、なんて言えば頻繁に会う事も叶い、周囲にアピールするのにも丁度良かった。

 リズに男は近づけさせたくなかったし、こちらに擦り寄ってくる令嬢も煩わしい限りで、誰にも入り込む余地はないと牽制出来ていたのだ。


「義弟君に比べて扱いが……雑だったよなー」

「こ……これからはちゃんとガラル優先するし!」


 領地から戻ってきて、今日も今日とて二人の逢瀬だ。相変わらず周囲に誰もおらず、完全に素の状態で話している。

 顔を真っ赤にしながらも、そんな事を言うリズに対して、ついつい悪戯心が沸き起こっても仕方ない事だろう。

 ちなみに、リズから告白を受けてからは、椅子の位置も対面ではなく隣にしている時もある。もうちょっと近くでも良いんじゃない?と言っては、無理なく距離を詰めているのだ。

 今日は勿論、隣に座っていて……。


「優先じゃなくて、特別が良いなー」

「ひゃっ!?」


 二人っきりなのを良い事に、頬に唇を落とすと、リズは真っ赤になって反応する。

 今までが今までというか、スキンシップの類なんて全くしていなかったから、反応が初々しくて楽しい。


「あ……あ……あんまりこんな事すると……っ!」

「嫌いになる?」

「…………」


 あれ?真っ赤になりつつ睨みつける姿も可愛い……けれどその先の言葉は何かな?と先手を売って聞くも、無言で唇を噛み締める。

 うん、嘘はつけない性格だし、嘘でも言いたくないだろうね。


「結婚は不可避だからね」

「わ……わかってる!覚悟しなさいよ!」

「え……?こっちが覚悟するの?」


 若干、喧嘩腰で返ってきた内容に驚きつつ、そういう所も可愛いと思える。

 あれ?え?と慌てるリズを見て、思わず吹き出す。

 ダレンの事でも、あれだけ素直で純情な反応や意見を出していたリズだ。元々がそういう性格なのはよくわかってる。


「三ヶ月後からは、もう夫婦だね。絶対離さないよ?」

「……離すつもりもないでしょう?」

「勿論」

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【完結】真実の愛を見つけてしまいました かずき りり @kuruhari

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