第2話
「もう!ダレンが!だいすき!!すごく好き!!」
侍女達も全員下がらせて、本日もガラルとお茶会の日だ。
素の自分に戻れて、ダレンへの想いを思う存分吐き出せる日である。
「うわー、お菓子食べる前から、もう甘々でお腹いっぱい」
「甘い話なんてないわよ」
好きだ好きだと言っても、何かが変わるわけでもない。
むしろ変えてはいけない。
分かっているからこそ、この時間はある意味でのストレス発散の場所だったりもする。
今日は婚約者としての親睦を深める為に、ダレンもサラの家に行っているのだ。
邪魔をするつもりもないし、してはいけないが、心が苦しくて張り裂けそうだ。
「ほら、このクッキー美味しいよ?」
暗い表情をしていただろうリズに気がついたのだろう、ガラルがお菓子を勧める。
こういう時は、さすが心友!と思えてしまう。
心や表情のちょっとした変化に気が付いてくれるのはガラルしか居ないだろう。
いや、むしろガラル以外の前では表情を出さないように気をつけているとも言えるのだけれど。
差し出されたクッキーを口に頬張り、更にリズはダレンの話を続けていたが、ふと思い立ったようにガラルが口を挟んだ。
「あ、ごめん。そう言えば伝えておかなきゃいけないんだけど」
「ダレンより大事な話?」
「……一応、婚約者の事は知っておこうね?」
呆れつつガラルが言うが、ガラル自身の事なのであれば確かに知っておく必要があるだろう。
婚約者なのに何故知らないのか、なんて事から色々影で言われる事もあるかもしれない。
「領地経営を学ぶのに、しばらく向こうに滞在する事になったんだ……三ヶ月くらい離れるかな?」
「そうなんだ……」
それはそれで寂しい。
息抜き出来る場がなくなるのだ。
ガラルとこうやって会っているのは、一週間に一度以上で、正直周りの婚約者同士と比べて多い方だと言われている程でもある。
だからこそ、上手くいっていて問題がない婚約とも思われていて、隠れ蓑にお互いちょうどいいわけだけど。
「頑張ってきてね!私も頑張る!」
「まぁ、何かあったら来ても良いからね?将来の為に見学とか理由つけて」
相変わらず、心友は優しい言葉で私の逃げ道を作ってくれる。
それだけで、自分の心も和らいでいくのが分かる。
早く、この恋心に決着をつけなくてはいけない事は、自分が何より理解しているし、自分だってどうにかしたいと思っている。
思っているけれど、どうしたら出来るのか答えなんてなくて……。
「ありがとう」
甘えだとしても。
逃げだとしても。
ガラルの気持ちはとても嬉しくて。
良い幼馴染で、心友を持ったと心の底から思う。
◇
「お義姉様」
「あら?ダレン。どうしたの?」
部屋でのんびり読書をしていたところ、ダレンが入室してきた為、読んでいた本を閉じる。
心の中ではダレンに会えた事、私を呼んでくれた事に喜びや嬉しさで叫びたくなりそうな程で、表には出さないが心臓がドキドキと高鳴っていた。
「サラがお義姉様も含めて、お茶がしたいと。明後日会う予定があるのですが、お義姉様の予定は空いていますか?」
次に放たれたダレンの言葉が、心に影を落とす。
先ほどとは違った意味で心臓が脈打つ。
そんな心境を悟られないように表情を変えずにいるが、内心では色んな事を必死に考えた。
断るか、断らないか。しかし理由もない。ここで角が立つような事になってはいけない。
「明後日ね……良いわよ」
「ありがとうございます」
結局、上手く断る理由もないし、ダレンと険悪な雰囲気になるのも嫌だ。将来的に義妹となるサラとも仲良くしないといけないだろう。
いつまでも逃げているわけにもいかないし、いっそ二人の仲を見て私の心もケジメが付けられれば良いのに……。
そんな事を思いながら、部屋から退室するダレンの背中を見つめていた。
◇
「お久しぶりです!リズ様」
「お久しぶりですね、サラ様」
会えて嬉しいという和やかな雰囲気で、お互い喜び合う。上手く出来ているかしら?
なんて、出来ているのよね。ダレンもサラも嬉しそうに微笑んでいるもの。
丸テーブルを三人で囲う形で座る事に安心する。これが四角のテーブルだったら、座る場所1つでも一喜一憂しそうだ。
サラが私に対して話を振って、それに私が答えて……穏やかな談笑が続く……けれど、ふとした時に視線を交わして微笑み合う二人に胸が痛む。
言葉を交わさなくても分かりあっていると言わんばかりの二人を目の当たりにして、胸が抉られたかのように痛み、心臓がドクドクと五月蝿い。
そんな事を一切表面に出さず、泣きそうになるほどな苦しみを耐え、私は一体何をしているんだろう……。
「将来、義姉妹になるので仲良くしていただけると嬉しいです。宜しければ来月もこうやって三人でお茶をしませんか?」
サラ様の提案に、私を伺うように見るダレン。きっとここは了承して欲しいのだろう。
ダレンとのお茶の時間、だけれど二人のこの空気に、また耐えなければいけないのか。
「そうね、来月もお邪魔していいかしら」
胸の痛みを押さえて、ダレンが望むならと、そう答えていた。
二時間程の時間で十分に理解してしまった、この二人の間に流れる親密な空気に、私はまた耐えなければいけないのか。
私とダレンは、血の繋がりがない。だからこそ私はダレンの事が大好きでもあるが、どこか壁があるのだ。
それは貴族としての礼儀作法もあるのだろうけど、血の繋がった私ではなく、自分が後継だという立場になってしまったからか、私に対して遠慮しているような節が多々見える。しかしそれは気のせいだとずっと言い聞かせていた。姉だから、貴族だから、礼儀作法だからと。
それが間違いであると、サラとダレンが二人の間で交わす視線や仕草で、痛感してしまった。
そして、貴族であれば後継問題での義兄弟が増える事や政略結婚も当たり前で、ダレンも政略結婚だからこそ表面上だけだと思っていた、思いたかった。
それも崩れ去ってしまった。
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