第23話

「ふぅ……」

 ユリアは書きあがった書類を前に、満足げに息を吐いた。

 現在教えをあおぐ師と共に進めていた極秘計画。

 先日のタジラ王とニナ王妃は研究に対し熱心に耳を貸してくださった。であれば、この計画も肯定的にとらえてくれるに違いない。

 ユリアは10歳の頃、故郷のツァル帝国からアズラク公国へやってきた。父が商人であり、その仕事の関係で連れてこられた。

 幼くして過酷な旅路を経験した。しかし結果的にこのアズラク大学で多くを学べることに、ユリアは感謝し、そして誇りに思っている。

 そして、そのように優秀なユリアが、磨きぬいた自身の叡智を国に認められたい、と願うことは自然だった。


 だからこその目の前の書類だ。この書類、計画はユリアと師の研究を最大限に活かした、政策提言書。

 王に認められることは間違いなし。さらに計画が成功すれば、ユリアは若くも偉業を成した賢者として名を刻まれるだろう。

 学者として成功した自分を想像し、ユリアはうへへ、とよだれを垂らした。


「ユリア! ユリア! 大変だ!」


 師の切羽詰まった声がユリアの妄想を引き裂く。

「な、なんですか?!」

 息を切らした師の顔は絶望に染まっていた。

「ニナ王妃がっ、ニナ王妃がっ、宣言されたっ」

 師はわなわなと震えた。

「学校を作られると、宣言されてしまった……!」

 師の言わんとしていることを、ユリアは理解した。

 先を越されたのだ。よりにもよって、国の象徴たる王の妃に。

「そんな……」

 ユリアは計画書を前に膝をつく。目の前の、『学校製作計画』はもはや日の目を見ることはない。すでに同じ計画を、他でもない国が、進めてしまったのだから。

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