第21話

「はぁ」

 庭園の木々を眺めながら、私は憂鬱にため息を吐いた。

「大学だけでも十分な人数に読まれると思うけどね」

 一方のタジラ王は、私が先日抱いた疑問に対し問題ないのでは、と答える。

「あそこには貴族も、また外国からも多くの人間が訪れる」

「確かに、大学はうってつけだけれど……」

 私は自身の浅はかさを恥じた。

 本を作ろうとも読む人間がいなければ意味がないのだ。

 識字率が低いゆえに本が作られず。そして本を作ったとしても、識字率が低いゆえに本は読まれない。

 本末転倒。

 もう一度深くため息を吐く。

「お茶をお持ちいたしました」

 見かねたアニータが茶を持ってくる。後から子供の鱗人が二人、茶菓子を運んできた。

「ありがとう。でも、私はお茶だけでいいわ。お菓子はあなたたちでいただいて」

「承知しました」

 鱗人の子供たちはお菓子が食べれると嬉しそうにしている。

「じゃあこれは僕の」

「ずるい。トラは俺の」

「こらっ。静かになさい」

 アニータは茶を淹れながら、賑やかな子供たちを叱る。

「あら」

 ふと気づいた。

「そのこたち、文字が読めるようになったのね」

 以前は数えることもままならず、文字も最低限のものしか読めなかった。

 今では、菓子に焼き印された『トラ』という文字も読めている。

「はい。今後も使えるように、合間を見て教育しておりました」

「アニータ、あなたばかりに負担をかけてしまうわね」

 宮殿の従者も仕えているが、やはりアニータは率先して私の身の回りを世話しようとする。

「従者を増やそうか。君だけでは身が持たないだろう」

「ご心配をおかけします」

 タジラ王の提案に、アニータは頭を下げる。

「しかしニナさまの背負うものに比べれば、わたくしの負担など小鳥の羽のようです。今でも十分にお休みはいただいております。従者を増やすことに異論はございませんが、わたくしへ気をもんでいただく必要はございません」

「そう」

 まあ、従者が増えれば自然アニータへの負担も減るのだから、増やせるだけ増やしておこう。もっと信頼できる存在を作ることも、重要なのだから。

 そう思い、私はアニータの淹れた茶を含んだ。

「あ!」

 その瞬間、私の脳にあるひらめきが起こった。

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