3章
第12話
港に併設している市場。その見たこともない賑わいに私は目を見張った。なにか催し物があるわけではなく、日常の風景だという。
タジラ王の公務に付き添い、私は市場に訪れることができた。
公務に付き添うといっても、私が何か手伝うことができるわけでもない。
私は本を読み、知識は持っている。しかし、それはタジラ王も同じ。いや、同じどころかタジラ王のほうが実際の経験も備えている。年下ではあるが、タジラ王は私の何歩先も言っている。
つまり、私は王様や家臣と比べれば、まだ生まれたての赤ん坊のように何も知らない。なので手伝うどころではないのだ。
妃の席に着いたばかりのころは、おそらくそういった理由で公務に付き添うことはできなかった。
しかしながら、現在、家臣の方々は私を歓迎している。
原因はタジラ王の性格にある。
タジラ王は、普段は温厚で冷静な方だ。しかし、一度彼の逆鱗に触れると、ゴルドバーク家の件のように徹底的に攻める一面ある。
無論、むやみにそのような行為に出るわけではない。たいていは法を犯した者に向けられる顔だ。その顔が、国内に向いている間は、優しいが厳しい王で通るだろう。
だが、国外に向けられれば。最悪戦争に発展しかねない。
しかし先日のゴルドバーク家のさい、私が口を挟むことでタジラ王は処分を考え直した。それが家臣の記憶に強く残り、私を王様のブレーキとして認識しているようだ。
さて、この扱いにどのような感情を持てばいいのやら。
タジラ王を止めることができたのは、私の言葉よりも、タジラ王に好意を持たれていることが要因だろう(自意識過剰でなければ)。
その好意は、単に私が趣味が合う女性だからだ。私の知識や経験が認められているわけではない。その点を、私は苦々しく思っている。
「ニナは、どう思う?」
「は、はい」
王様の質問に、私はとっさに返事をした。
そうだ、今は公務の合間。気を抜いている暇はない。
「そうですね……」
時間稼ぎに会談相手である、鳥人たちへ視線を一周させた。
彼らはテトラ商団。西南の島々を拠点としている商人、あるいは船乗りたちだ。現在、タジラ王はテトラ商団との繋がりを強くしたいと考えている。
なぜなら、彼らは海路において主要な運び屋だからだ。彼らの意思次第では、アズラク公国は海の貿易ルートを失うことにもなる。
そのような強固な態度をとれるのも、テトラ商団は特定の国に所属していない独立した集団ゆえだ。アズラク公国の前進もテトラ商団のような集団だったのだろう。
そして彼らは現在、あくまでも取引相手の一つとしてアズラク公国に滞在しているに過ぎない。最近は別の取引相手、シン皇国と親密にしているらしい。
テトラ商団を引き込むということは、海を制したも同然だ。そのような考えから、さらなる歩み寄りをタジラ王は行いたいのだ。
私は横目で王の顔をうかがう。
「木材の輸出関税は、検討しなおした方がよろしいのではないでしょうか」
「木材かい?」
「はい。木材は主に海路を利用します。最近は北方からの木材が多く入っています」
北方とはもちろんグラン王国のことだ。
王は続けていい、と視線で促す。
「それらを有効活用するためにも、輸出関税を下げ、流通しやすくしてはいかがでしょうか」
かかる税金が減ることは商人にはうれしいことだ。テトラ商団の面々も前のめりになっている。
タジラ王もゆっくりとうなずいた。
「うん。木材が回るようになれば、そこを起点によい影響があるだろうね。いい着眼点だよ、ニナ」
「ありがとうございます」
いい着眼点もなにも、そもそもタジラ王が考えていたことだ。
直接伝えられたわけではないが、視線を追えば何をどうしたいのかある程度は予想できる。
私が特別というわけではない。王は何をかんがえているのか、求めているのか、わかりやすい目をしている。しばらく顔を合わせればたいていは読み解けた。しかし察してもらうぶん言葉にしないため、私も家臣も疲れてしまうが。
そうこうしている間に、話はまとまったらしい。タジラ王とテトラ商団の代表が握手をし会談は終了する。
太陽は真上に登っていた。予定通り、この後は会食となるのだろう。
準備ができるまで、王と代表は歓談する気のようだ。内容はシン皇国の税金のこと。
実際の会談よりも非公式の歓談のほうが物事の決定に影響する。私は邪魔をしまいと、また少し休憩が欲しいため、静かにその場を離れた。
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