第1部 第12話

「あぁ!そうか!ヤハギさんからもらったんだ?それは…躊躇しちゃうね。」


「お腹がすいているから食べたいんだけど、食べた後が不安なんだ。」


「お腹がすいているのか。でも僕は何も食べられるものを持っていないからなあ。どうしよう?」


「あの~?ちょっといいですか?」

カノウが、2人の話に入ってきました。


「そんなにお腹がすいているのなら、どこかコンビニでも寄りましょうか?」


「えっ⁈いいんですか?」


「大丈夫ですよ。それに本日の功労者をお腹すかせたままにしていたことがばれたら、僕がムカイさんに怒られますよ。」


カノウが笑いながら言いました。


「それなら、次のコンビニに寄ってもらってもいいですか?」


「わかりました。」


そう言って、カノウは車を走らせて、コンビニを見つけると停車しました。


「すみません。ちょっと行ってきます。」


ヒイロがそう言って車を降りようとすると、ツバサが「僕も飲み物買ってきます。」と言って、一緒に車を降りました。急いでおにぎりとお茶を買ったヒイロが車に戻ると、既にツバサは戻っており、ヒイロが車に乗り込んで間もなく、車はコンビニの駐車場を離れました。ヒイロがおにぎりの包みを開けて食べようとすると、カノウが「すみません。ラジオ聞いてもいいですか?」と聞いてきたので、「はい。大丈夫です。」とヒイロは答えると、カノウはラジオのスイッチを入れました。ヒイロがおにぎりを食べ始めると、ちょうどラジオDJが曲紹介をしているところで、すぐに曲が流れ始めました。その曲を聴いてヒイロは(この曲、何年か前に流行った曲だな。)と気づきました。

(当時は結構いろんなところで聴いたなあ。)と懐かしく思って聴いていましたが、おにぎりを食べ終わるころにはその曲も終わってしまいました。


するとカノウがラジオのチャンネルを変えてニュースを聞き始めました。


「あっ!すみません。チャンネル変えて大丈夫でしたか?」


カノウが気を遣って聞いてきました。


「大丈夫ですよ。なっ!ツバサ?」とヒイロは返答しながら、ツバサに同意を求めました。


「うん!大丈夫ですよ。ちょうどニュースが聞きたかったところです。」とツバサは答えました。


車のスピーカーからは今日起こった事件や事故、政治や経済動向などのニュースが流れてきましたが、ヒイロは「ツバサが聞きたいニュース」の方が気になって仕方ありませんでした。

(また、ヒデオさんが怪物を倒したのかあ。)などということをヒイロが考えていると、不意に眠気が襲ってきました。ニュースも天気予報になり、(結局ツバサが聞きたかったニュースってなんだったんだろう?)とヒイロがウトウトしながら考えていると、ツバサがカノウに話しかける声がうっすらと聞こえてきました。


「すみません。…さん…のニュースが…ないん…。」


「仕方ない…ですし…ない…。」


(2人とも…何…話して…る…。)


ヒイロは2人の会話が気になりましたが、眠気に勝てず、そのまま眠りにつきました。しばらくしてからカノウの「ヒイロくん!ヒイロくん!起きてください!ヒイロくん!ヒイロくんの家にそろそろ着きますよ!」というヒイロを起こす声でヒイロは起きました。


「あっ。すみません。カノウさん。起こしてもらって。」


目が覚めたヒイロは、まぶたをこすりながら隣の席を見ると、ツバサがいないことに気づきました。


「あれっ⁈ツバサは?」ヒイロが疑問に思ったことを口に出すと、「先にツバサ君の家に向かったので、もう家に帰りましたよ。」カノウが丁寧に教えてくれました。


「ああ、そうでしたね。すみません。ところで、もう1つ質問いいですか?」


「ええ。いいですよ。」


「ラジオのニュースが終わりそうな時、ツバサと何を話していたんですか?」


ヒイロは自分が眠りに落ちる時に、気になったことを聞いてみました。


「それは…あぁ!もしかしてヒイロくんがサトウさんを救出したニュースがどうして放送されないのかとツバサくんに問い詰められたやつですかね。ニュースを流す時間の都合上カットされたんじゃないかと答えたら、不満そうにしていましたよ、ツバサくん。」


「そうですか。ありがとうございます。」


ヒイロは(ツバサが聞きたかったニュースは、自分が活躍したニュースだったんだ。)と思い、友達が自分のことをそこまで気にしていることに、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになりました。


「さあ、着きましたよ。」


カノウの言葉にハッとすると、ヒイロは車が自分の家の前に停まっていることに気づきました。ヒイロはすぐにお礼を言って、車を降り、発車する車が見えなくなるまで見送りました。

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