第1部 第13話

 車を見送ったヒイロが「ただいま。」と言いながら家に入ると、ヒイロの母親が「おかえり。お疲れ様!」と笑顔で出迎えました。ヒイロの母親は、靴を脱いで、洗面所に向かおうとするヒイロに、「ニュース見たよ。大活躍だったじゃん!」と嬉しそうに、でも半分ヒイロを茶化すように言いました。


「えっ⁈ニュースで流れたの⁈」


「うん!でもヒイロの名前は放送されなかったよ。『遭難者を発見。救助したのは学生だった。』ってだけ。悪いことしたわけじゃないんだから、ヒイロのこと放送してくれたっていいのに!」


「俺は実名が放送されないように規制してくれて嬉しいけどね。」


ヒイロを始めとした学生たちが怪物を退治したり、遭難者を捜索して救出したことをニュースで報道する際には、実名など個人を特定できそうな情報は放送できないように法律で規制されているのですが、目撃情報や怪物を退治している様子をスマホで撮影した動画がネットで拡散しているのが現状です。

ヒイロが母親を通り過ぎて洗面所に行こうとしたところ、「あっ!夕飯すぐに食べられるから。それと…。」


「それと何?」


反抗期真っただ中が故に、母親に対して乱暴な態度をとってしまったヒイロに「弁当箱出して!洗っちゃうから!」と、平然な態度でヒイロの母親は対応しました。


「わかったよ。弁当箱ね。」


ヒイロは渋々といった様子でカバンに手を突っ込んで弁当箱を取り出しました。取り出した瞬間、ヒイロはあることに気づき、(ヤバい!)と焦るも、既に弁当箱はカバンの中から取り出してしまったので、諦めて母親に弁当箱を差し出しました。受けっとったヒイロの母親は、受け取った瞬間表情を曇らせました。


「あの、これ…。」


「ごめん。お昼にいろいろあって全部食べられなかったんだ。捜索が終わった後食べれば良かったんだけど、すっかり忘れてて、それで…。」


「あはは。大丈夫。残したことは気にしてないから。それよりお腹すいていない?すぐご飯食べる?」


ヒイロの母親は気にしてない様子でしたが、ヒイロは深読みしすぎて、余計に申し訳なく思いました。ヒイロは「うん。食べる。」と言って、すぐに洗面所に向かい、手洗いうがいをしようとしたら、母親から「あっ!用意してあるから、先にお風呂入っちゃいなさい。」と言われて、「わかった。」と返事をしました。洗面所に行き、手洗いうがいをしてお風呂に入った後、母親が用意してくれた夕飯を食べました。帰宅する前に車の中でおにぎりを食べていたヒイロですが、母親を気遣っておかわりまでしました。


「ごちそうさま。」


夕食を食べ終えたヒイロは、食器を片付け自分の部屋へと向かいました。

部屋に入ると、制服はハンガーに汚れやシワが1つもない状態でかけられており、カバンは机の横に置いてありました。部屋に入って飛び込んできた光景に、ヒイロは母親の愛情を強く感じました。制服のポケットからスマホを取り出し、ベッドに横になったヒイロは、カバンから取り出したエナジーバーが置いてある机の方を見つめながら、「いつ食べようかな…?」と呟きました。


(とりあえず今はお腹いっぱいだから、明日考える!明日は休みだし、時間もいっぱいある…そうだっ!ショウを誘って服を買いに行くのもいいかも!ポイントも…少しは貯まってる気がするし。)と、結論を先延ばしにしたヒイロは、今日学校を休んだ友人のショウと買い物に行くことを思いつきました。


ショウが今日休んだ理由をその時に聞いてみようと考えたヒイロは、早速メッセージを送ろうとスマホを見ると、ツバサからメッセージが来ているのに気づきました。メッセージを見てみると、「今日はおつかれ。」と書いてあったので、ヒイロは「おつかれ。俺のニュースがないか気にしてくれたみたいじゃん。ありがとう。」と返信しました。


続けてショウに「明日服買いに行こうと思っているんだけど、一緒に行かない?」とメッセージを送ってみました。数分後ショウから「いいけど。どこ行く?」と返信があったので、郊外のショッピングモールを提案すると、「わかった。10時半くらいに現地集合でいいか?」と聞いてきたので、ヒイロは「それでいいよ。」と了承しました。そこまでメッセージを送って、今日の疲れが出たのか、強烈な睡魔が襲ってきて、ヒイロは眠ってしまいました。

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