第1部 第11話

「すみません。よく間違われるんですが、僕の名前はヒーローじゃなくて、ヒイロなんです。」

とヒイロは恥ずかしそうに訂正しましたが、「いや、間違ってないよ。キミは本当に俺のヒーローだ。」とサトウさんはヒイロの目をまっすぐ見て言いました。気恥ずかしくなりながらもヒイロはサトウさんの言葉に「そうですか。ありがとうございます。」と返しました。


救急隊員に連れていかれる際にも、「ありがとう!本当にありがとう!」と感謝の言葉を口にしていたサトウさんをヒイロは、ボーっとした様子で見送っていました。すると背後から、「よぉ!お手柄じゃんか!ヒーロー!」と言う声が聞こえました。


ヒイロがパッと振り向くと、そこにはヒイロの肩に腕を回しニヤついた表情を浮かべているツバサの姿がありました。


「遭難者の方が早く見つかって良かった!これもヒーローのおかげですね、ムカイさん?」


「確かに。こんなに早くサトウさんを無事に救出できたのは、ヒーローくんのおかげだよ!本当にありがとう!」と、明らかにヒイロをからかっているツバサの問いかけに答えたムカイもまた、ニヤついた表情を浮かべて、ヒイロをからかいました。


「ツバサもムカイさんもやめてください!」


「やめろって、何をやめればいいんだよ?ヒーロー?」


「ヒーローって呼んでからかうこと!分かってやってるだろ!」

と、ヒイロが怒る理由を分かっていながらしつこくからかってくるツバサにヒイロが苛立ちを募らせると、「ごめん!ごめん!ヒイロくん。ちょっとからかってみようかなと思っただけなんだけど、そんなに嫌だったのなら謝るよ。ほらっ!ツバサくんも一緒に!」


ツバサにしつこくからかわれて苛立ちを隠せなくなったヒイロの姿を見たムカイが、間に割って入り謝罪しました。ムカイに促されたこともあり、それまでのニヤついた表情だったツバサは、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべ「ヒイロ、ごめん。ヒイロが本気で怒るもんだから何だか段々とからかうのが楽しくなっちゃって…。本当にごめん。」とヒイロに謝罪しました。2人が真剣に謝ってくれたので、ヒイロは何だか怒っているのが馬鹿らしくなり、「まあ、もうやめてくれるなら、それで十分です。」と言って、2人を許しました。


「良かった~。危うく今日の功労者を怒らせて帰らせた張本人として、上からおしかりを受けるところだったよ!本当に良かった!ねっ、ツバサくん!」


「日が暮れてきても見つかってないと聞いた時は、これは今日中に見つからないんじゃないか?と思ってたから、ヒイロがサトウさんを見つけてくれてホント良かったよ!」


先程と打って変わって自分を持ち上げ始めた2人に半ば呆れたヒイロは、この場に1人足りないことに気付き「あの、ちょっといいですか?」と、ムカイに尋ねました。


「ん?何だいヒイロくん?」


「一緒にサトウさんの捜索に参加していたヒトミさんはどこにいるんでしょうか?挨拶したいなと思ったのですが…。」


「あぁ!シンくんね!シンくんはまだ戻ってきてないんだ。2人と違って空を飛べないからね。 彼には僕の方から言っておくから、もう暗くなってきたし2人は帰った方が良い。部下に送らせるよ。」


ムカイに言われて、ヒイロはここに着いた時より日が落ちていることに気づきました。


「でも、大丈夫なんですか?ヒトミさんは?」


「シンくんは捜索隊と一緒に行動しているから安心してくれ。ヒイロくんがサトウさんを発見・救助したことはヒイロくんから連絡があった時点でシンくんに伝えてあるから、今頃捜索隊のメンバーと一緒に下山しているはずだよ。」


「そうですか。それなら…送ってもらおうか?ツバサ?」


「そうだね。」


2人の帰る意思を確認したムカイは「カノウ!2人を家まで送ってくれ!」と、捜索隊本部の片付けをしている1人に声を掛けました。にカノウと呼ばれた人物は片付けの最中でしたが、ムカイに声を掛けられると作業している手を止め、「はいッ!」と返事をして3人がいる場所へ駆けつけました。


「それでは、自分についてきてください。」


「それでは、ムカイさん。お先に失礼します。」


「お先です。失礼します。」


カノウの指示に従い、ヒイロとツバサが挨拶して去ろうとしたところ、「ちょっと待って!!」ムカイが、ツバサとヒイロを呼び止めました。


「どうしたんですか?ムカイさん?」


「今日の日当は明日までに振り込んでおくからッ!」


能力を使って事件の解決や遭難者の捜索などを手伝った学生には、日当が支払われます。支払われる日当ですが、現金ではなくヒイロを始めとした学生たちのみが使えるポイントで支払われることになっていました。それは通称abilityポイントと呼ばれていて、電子マネーとして様々な店舗で使用することも、申請することで現金へ換金することも出来ます。


「わ、わかりました。ありがとうございます。」


「ありがとうございます。」


「日当を絶対に振り込むから!」というムカイの圧に若干驚きながらも、ヒイロとツバサは共に制服に着替え、カノウが待つ車へと向かい、乗り込みました。


「忘れ物とかないでしょうか?」


「え~っと、はい。大丈夫です!」


「僕も大丈夫です!」


「了解です!それでは出発します!」


カノウの合図と共に、3人が乗った車は走りだしました。ツバサの家へと向かった後、ヒイロの家に向かうことになり、1時間近くかかるのがわかったヒイロは、すごく疲れていたこともあって家に着くまでの間に寝ようとしたものの、眠さと同等の空腹感にも襲われ、眠ることができませんでした。何か食べるものはないかと考えたヒイロは、チヒロからもらったエナジーバーがあるのを思い出しました。カバンのポケットから取り出したエナジーバーを食べるかどうか迷っていると、「どうしたの?食べないの?」と、ツバサが話しかけてきました。


「いや、食べたいんだけど、食べたくないっていうか…。」


「えっ⁈どういうこと?」


ヒイロは、お昼にあったことをツバサに話しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る