第1部 第6話

「はあ~。何とか間に合った。」


急いだおかげで何とか朝のホームルームに間に合ったヒイロは自分の席に着き一息ついていました。チカラとツバサは別のクラスなので、朝の話の続きをするにはヒイロの方からチカラのクラスに行かなくてはいけないのですが、飛んでくるのに体力を使って疲れたので、ヒイロはやめることにしました。ヒイロは自分の席の机に右ホホを付けながら、朝の会話を思い出していました。


「チカラが俺をうらやましく思うことってなんだろう?どう考えても能力的にもそれによる活躍にしても、チカラのことを俺がうらやましく思うことがあっても、チカラが俺をうらやましく思うことなんてないよなあ?全然わからない。どう考えても俺の叶えてもらった願いごとがたいしたことなさすぎる!やっぱりもっといい願いごとを叶えてもらえばよかった。でもあの時本当に願いごとなら何でも叶えてもらえたのかなあ?」とヒイロが考えていると、「何でもではないと思う。」と答える声が聞こえました。


ヒイロはびっくりして声の聞こえた方を向くと、声の主である右隣りの席に座る女子生徒は「ソラくん、声に出してたよ。」と少し笑いながらヒイロが考えていたことに答えた理由を明かしました。右隣に座る女子生徒、矢作 千尋ヤハギ・チヒロの言葉に顔が熱くなるのを感じたヒイロは「本当に?恥ずかしいなあ。ところでどうして何でも叶えてくれるわけではないって分かるの?」と尋ねました。


「それはね…、あっ!もうすぐホームルームが始まっちゃう!それじゃあ授業終わった後時間ある?ヒイロくん?」


「うん。午後から山での遭難者の捜索があるけど、お昼食べる時間ぐらいなら大丈夫。」


「わかった。その時話すよ。」


ヒイロとチヒロの会話が終わってすぐに担任教諭が入ってきてホームルームが始まりました。担任が出席確認を取り始めました。


「えーっ。アカシ!アカシ!そうだ、アカシは今日欠席すると連絡があったんだった。」


担任の発言を聞いて初めてヒイロは友達の明石 アカシ・ショウがクラスにいないことに気づきました。


「先生!ショウは何で休みなんですか?」とヒイロが尋ねると、「詳しくは言えないが、病欠ではないから心配するな!」と担任が答えました。


「ショウも何か要請があったのかな?」


ヒイロにとって疑問に思うことがさらに増えました。『チカラの発言』『チヒロの発言』『ショウが欠席した理由』の3つが授業中も気になって、授業内容がほとんど頭に入ってこなかったヒイロでしたが、なんとか授業をやり過ごし、お昼になったので、すぐに現場に向かえるように運動着に着替えた後、弁当を食べながらチヒロと話の続きをすることになりました。


矢作千尋は、「学力も運動神経も平凡」「友達の数もそこそこ」なヒイロと共通点が多い女の子ながら明らかにヒイロとは違うことが一つありました。それはヒイロと違って容姿がとても秀でていて異性にモテるということです。現に、ヒイロがチヒロと一緒にお昼を食べることを苦々しく思っている人たちが少なからずいたのです。


「それでどうして光のぬしは願いごとを何でも叶えてくれるわけではないってわかるの?」


ヒイロはいきなり本題に入りました。


「それはね、わたしが願ったことと叶えてもらったことが違うからだよ。」


「えっ⁈ヤハギさんが願ったことって、ポケットから何でも欲しいものが取り出せるようになりたいじゃないの⁈」


(ポケットから欲しいものが何でも取り出せるなんて、とてもいい願いごとを叶えてもらったんだな。)と思っていたヒイロにとって、その能力を否定したチヒロの言葉は衝撃的で驚きを隠せませんでした。


チヒロの能力は食料品や日用品、薬品、貴金属など欲しいものをポケットから取り出せる能力です。ただし衣服に付いたポケットからしか取り出すことができず、取り出せるものも取り出すポケットの出し入れ口よりも大きなものは取り出すことが出来ません。そのため、チヒロは普段から制服の上に大きなポケットが付いているエプロンを着ています。

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