第1部 第5話
ヒイロはチカラやツバサだけでなく、高校の先輩であるユウキヒデオに対しても強い劣等感を感じていました。ヒデオは高校在学中から怪物退治に参加していたことで「怪物の脅威から我々が平和に暮らせているのはユウキヒデオの存在があるからだ。」とまで言われるほどに有名となり、いつしか人々から『ヒーロー』と呼ばれるようになりました。
そう言ったヒデオを称賛する声などを聴いて、ヒイロは自身の能力とヒデオの強さを比べてしまい「なんで俺は空を飛べるだけの能力をもらってしまったのだろう?」と何度も自問してしまうのでした。
「そっか。じゃあ2人とも午後から頑張ってね!」
「ありがとう!チカラ。一緒に頑張ろう!な、ヒイロ!」
「…え?あ、あぁ!頑張るよ。」
「どうしたの?ヒイロ。大丈夫?」
ヒイロは自分勝手な劣等感でチカラに心配させてしまったことに罪悪感がする反面、(恵まれた能力を持ったチカラに俺の気持ちが分かるわけがないんだ。)という苛立ちも感じてしまい、思わず「なぁ、チカラやツバサは願いごとを叶えてあげるって言われたあの時、何て言ったの?」と今まで何度もチカラたちに聞いているはずの、返ってくる答えが分かりきっている質問を口にしていました。ヒイロがこの質問を何度もしてしまう心境の裏には(チカラやツバサとは違い、自分は大した願いごとを叶えてもらっていない、かわいそうな奴だ。)と思わせたい気持ちがあったのです。
「僕は『鳥の様に翼で空を飛べるようになりたい。』で、チカラは確か『手を使わずに物を取れるようになりたい。』だったよね?」と、ヒイロが何度も聞くあまり、チカラが望んだ願いごとまで把握してしまったツバサが答えると、「それを聞いたって何の意味もないよ!」と、チカラは声を荒らげました。少し怒っているのか今まで眠たそうだったチカラの目は、ぱっちり見開いていました。
「おいおい!どうした、いきなり?」
突然のことで、ツバサは慌てました。
ヒイロもチカラの反応が予想していたものと違い、動揺しました。
「ヒイロ!君はよく『なんて願いごとを叶えてもらった?』と僕たちに質問するけど、それはほとんど無意味だよ!願い事を叶えてもらった人のほとんどがその時のことをはっきりと覚えていない。話している大半の内容が推測なんだ。それに叶えてもらう願い事を変えるなんてことは過去に戻らない限りできないんだから、『もっといい願い事を叶えてもらえばよかった。』って考えは意味がないんだ。」
チカラが言っていることが正しいので、ヒイロは何も言えずにいました。
「そして最後にヒイロは僕やツバサの能力とヒイロの能力を比べさせて、自分はかわいそうなやつなんだと思わせようとしたかったのだろうけど、それが無意味だよ。僕はヒイロのことをうらやましいと思ったことはあっても、かわいそうだなんて思ったことないもの!」
「えっ⁈本当に⁈」
チカラの話を聞き、ヒイロは驚きを隠せませんでした。
「どういうところがうらやましい?」
「教えな~い!変な質問した罰として少し自分で考えればいいよ。」
「そんなこと言わずに教えてよ!」
「やだね。教えない!」
すると、すっかり忘れられていたツバサが申し訳なさそうに2人の話に割り込んできました。
「おーい…」
「「何!」」
ヒイロとチカラが同時に聞くと、「悪いんだけどさ、そろそろ急がないと遅刻しちゃうよ。」と言いました。
「えっ⁈本当に⁈」
ヒイロが腕時計で時間を確認すると、確かに急がないとやばい時間になっていました。
「よし!話の続きは後にして、今は急いで学校へ行こう!」
「うん。」
ヒイロたちは急いで学校へ向かいました。
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