第1部 第4話

 3年前に怪物が初めて現れた時、日本政府はすぐに自衛隊を派遣しませんでした。法整備ができていなかったからです。当初は警察が対応に当たりましたが被害を抑えることは出来ず、国会で特措法が通ってようやく自衛隊が派遣できるようになったのも束の間、自衛隊が尽力しても撃退できないほどに強力な怪物が出現し始めました。すると能力を授かった少年少女の中から自ら率先して怪物退治を行う子たちが現れ始めたのです。「自衛隊でも対応出来ない強力な怪物の出現」「怪物たちと渡り合える能力を持つ少年少女の出現」を重く受け止めた日本政府は「怪物を倒せる力を持っているのなら、その子たちに手伝わせるべきじゃないのか。」という世論の声が上がり始めたこともあり、「能力を授かった未成年者たちによる怪物退治活動を許可する」法整備を実施。1年程前から施行されました。


「能力があっても未成年なのだから、怪物退治という危険な行為を国の法律によって行わせるのはおかしい。大人たちで何とかすべきだ。」という世論の声もありますが、自衛隊だけでは撃退するのが難しい怪物が現れている事実もあり、妥協点を探りあった結果「学業を優先し、高校を卒業するまでは要請に対し、任意で出動する。」「怪物を倒した場合は高額な報酬金を、怪物退治の際に怪我をした場合は高額な補償金を、怪物退治で命を落としてしまった場合は家族に高額な賠償金が支払われる。」「怪物退治に参加するのは連続2日まで。」と言った条件の下、自衛隊と共に怪物退治に参加することになりました。

この規定に従い、2日連続で怪物退治に参加したチカラはこの日、休みになっていました。


「それに怪物を追っているのは、あのヒーローだからね。任せちゃって問題なし。」と、チカラは笑みを浮かべながら言いました。


「もしかしてヒデオさん⁈」


「うん。」


「そっか。ヒデオさんが出動しているなら安心だな。」


結城 英雄ユウキ・ヒデオは今年の春に高校を卒業したヒイロたちの先輩です。高校に在学中から要請があれば積極的に怪物退治に参加し、数多くの怪物を撃退していました。彼から逃げられた怪物はいないと言われるくらい、ほぼ確実に怪物を撃退していました。

高校を卒業した現在は、「行ったことがある場所ならどこでもすぐにワープ出来る能力」の持ち主である遠藤 向一エンドウ・コウイチという同級生を相棒に、日本各地で行われる怪物退治に頻繁に参加しています。


「そういえば、一昨日起こった登山に行った人が連絡も取れないまま行方不明になってるあのニュース、もしかしたらヒイロやツバサに捜索の協力要請が来るかもよ。」


「うん。今朝、学校が終わった午後から手伝ってほしいってメールが来てた。ヒイロも?」


「俺にも来てたよ。」


ヒイロはそっけなく答えました。


ヒイロは自身に出される出動要請に引け目を感じていました。ヒイロやツバサのような戦闘に向いていない能力を持っている子たちへの出動要請ですが、災害時における人命救助や山や海での遭難者の救助が主な内容で、これらの出動要請も国や自治体から出されるので、手伝えば怪物退治ほどじゃないにしても日当が支払われます。前に述べていたヒイロが行うボランティア活動の大半がこういった有償ボランティア活動なのです。ヒイロたちが行うボランティア活動は人の生死に近く、とても重要な活動なのですが、チカラやヒデオが参加している怪物退治に比べれば派手さがないことに、ヒイロは強い劣等感を感じていました。

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