第1部 第7話

「そうだよ。私の本当の願いは、ドラ〇もんのひみつ道具が入った四次元ポケットが欲しいだから。」


「えー。そっか。それならヤハギさんが叶えてもらったことは、完全じゃないね。ドラ〇もんの四次元ポケットに比べたら、ヤハギさんの能力は見劣りしちゃうね。」


「そうでしょ!」


「でも、願いごとを叶えてもらった大半の人が、叶えてもらった時の記憶が曖昧なのに、どうしてヤハギさんはハッキリと覚えているの?」


ヒイロはふと疑問に思ったことをチヒロにぶつけた。


「小学生の頃の私はずーっと『ドラ〇もんの四次元ポケットがあればいいなぁ。』って思ってたから、願いごとを叶えてもらうとしたらそれしかないって確信してるの。覚えているというより、そんな風に考えたって感じだよ。」


「そっか。そう推測したわけだ。」


「うん。でも、叶えてもらった願いごとが『ドラ〇もんの四次元ポケットが欲しい!』だと確信した瞬間に光のぬしとの会話を鮮明に思い出したの。これはまだ世界的にも例が少なくてハッキリとしたことは言えないんだけど、自分の本当の願いごとに気付くと光のぬしとの会話を思い出せるみたいなの。」


「えっ⁈マジで⁈」


「マジで!それで私は光のぬしに『四次元ポケットが欲しい。』って言ったら、『四次元ポケットって何?』って聞かれて、一生懸命説明したんだけど上手く説明できなくて、四次元ポケットの代わりにポケットから欲しいものを取り出せる能力をもらったことを思い出したの。」


「なるほど。確かに四次元ポケットの説明を小学生にさせても完璧にはできないかもね。」


ヒイロはチヒロの説明に納得すると同時に1つ嬉しいことに気付きました。


「そうすると、俺の願いごとはただの『空を飛べるようになりたい!』ではないかもしれないんだ?だってさ、俺、願いを叶えてもらった時のことはっきりとは覚えていないからね。」


ヒイロは笑みを浮かべながら、チヒロの同意を得ようとしました。


「でも、そうだったとしても、ソラくんの能力がまるっきり変わることはないと思うなぁ。良くて+αがあるだけだと思う。」


「…そんなこと、分かってるよ。」とチヒロの言葉に我に返ったヒイロでしたが「空を飛べる」という能力が、チカラやツバサの能力と並んだと思えるほどに変わることを期待せずにはいられませんでした。


ヒイロが少しへこんでいると、チヒロは、「ごめん。あまり過度な期待を持たせちゃいけないかな~って思って!でももしかしたら、すごい+αがあるかもしれない!だから、ね?そんなに落ち込まないで?」と、少し前言を撤回しました。


そのあと、チヒロが時計を見て、「ねえ、もう20分ぐらい経っているけど大丈夫?午後から遭難者の捜索活動があるんじゃなかったっけ?」と聞いてきました。

ヒイロは愚痴りながら、「そうだった。そうだった。あ~あ。お昼ほとんど食べていないよ。でも、もう行かなきゃなあ。はあ~。」と向かう準備を始めました。

すると、「これよかったら向かいながら食べて。これなら飛びながらでも食べられるでしょ?」と言って、チヒロがエナジーバーを差し出しました。


「えっ⁈いいの⁈ありがとう。」


ヒイロがお礼を言ってエナジーバーを受け取ろうとしましたが、途中で手を止めました。


「どうしたの?」


「いや、これ、もしかしてヤハギさんのポケットから能力を使って出した?」


「うん。そうだけど、それがどうかした?」


「う~ん。申し訳ないけど、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう。」


ヒイロはすごく辛いことをするかのような表情で、チヒロの厚意を断りました。

チヒロは納得がいかず、「どうして、受け取ってくれないの?」と聞いてきます。ヒイロはチヒロの厚意を断った手前、ちゃんと答えなきゃいけないと思いながらも、「あの~、実に言いづらいのですが、ヤハギさんの能力で出した食べ物を食べるということに抵抗があるというか…何というか…。」としどろもどろに答えました。


「なんだそういうこと。なら大丈夫だよ。私の出した食品は研究機関に調べてもらって、科学的に安全だという結果が出ているよ。」


チヒロは笑いながら安全性を説明してきました。


(安全とかそういう問題じゃなくて、『どこから取って来たのか(それとも作り出されたのか)分からない食べ物』を食べる気にはならないっていう感覚的な問題で拒否感があるんだよなぁ。)とヒイロは思っていましたが、チヒロが浮かべる笑顔に無言の圧力のようなものを感じ、ここは受け取るだけ受け取っておこうと考え直しました。


ヒイロはできるだけ丁寧に受け取ろうと、「すみません。そういうことならいただきま…」と言いかけた時、「いらないなら、私がもらうね。」という声と共にチヒロの手からエナジーバーを取る手が見えました。ヒイロとチヒロが、その手を目で追いかけると、同じクラスの女子生徒、安食 育美アジキ・イクミがいました。


「駄目よ。イクミ、それはソラくんにあげたの。」


「え~。でもソラくんいらないみたいなこと言ってたじゃん。ねっ!ソラくん!」


2人の視線が自分をしっかり捉えていることに気付いたヒイロは少し慌てて、「そんなことないよ!受け取ろうとしてたよ!」と言いました。


「ホントに~?」


「ホントだって!」と、イクミが自身に向ける疑惑の目に耐えられずヒイロはイクミの言葉に即答しました。


「ほら、ソラくんに渡しな。イクミ。」


「ていうか、こんな言い争いしなくても、もう一本チヒロがポケットから出せばいいんじゃん!」


イクミの言葉にハッとしたチヒロは、もう一本ポケットからエナジーバーを取り出し、「それもそうだ。ソラくんには時間がないんだった。はい、ソラくん。」と言って、ヒイロに差し出しました。


チヒロが差し出したエナジーバーを受け取りながらヒイロは(アジキさんの言葉を慌てて否定しなければ、ヤハギさんに対して失礼にならず、エナジーバーを受け取らないことが出来たんじゃないのか?)と思いましたが、「ありがとう。ヤハギさん。大事に食べるよ。」とチヒロにお礼を言って、エナジーバーをポケットに突っ込み、捜索活動に向かうために急いで学校を後にしました。


最後にチラッと見えたイクミの顔がしてやったりといった表情だったので、からかわれたのだとヒイロは理解しました。

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