最終話  Fall in Love

「はぁ……」


 ため息をつくと幸せが逃げるって言うけど。


 このため息は違う。


 自分の恋心を自覚して胸がスッキリして、吐き出した息。


「ため息ついてるのに笑ってるね」


 小百合さんが笑った。


「そうですね」


「おっ、素直だ」


 あははっ、と楽し気な彼女を見ていると、更に気分が晴れやかになっていく。


 ふと窓の外に視線を移せば、木々の緑が眩しい。


 鬱陶しい夏の暑さも、お店の中からなら爽快感を感じさせるだけだ。


 なんだか、今なら言えそうな気がする。


 ついさっき自覚した自分の気持ち。


 生まれたての感情。


 そのまま伝えてもいい。


 でも、この人には振り回されっぱなしだから。


「小百合さん」


「なあに?」


 首をあざとく傾ける彼女に、

「連絡先、交換しましょう」

 私もマネをして首を傾ける。


「えっ、マジ!?」


「マジです」


 さっきも似たようなやり取りをしたな。


 立場は逆ですが。


 オロオロ慌てふためいてスマホを取り出す小百合さん。


「でも、今は仕事中なので。閉店後――」


「待つ待つ。いくらでも待つ」


 ぎゅっとスマホを握りしてめる彼女は、とっても可愛らしい。


 もし世間に小百合さんが女を口説いてるってバレたら。


 大騒ぎになるだろうし、炎上するかもしれない。


 まぁ、そのときはそのときか。


 今日から私たちは、ただの友だちになるんだし。


 小百合さんは「恋人への一歩前進」って考えてるかもしれないけどね。


 これからは私が振り回す側になれるよう、努力します。


「じゃあ、私仕事に戻――」


「ところで麗奈ちゃん、いきなりなんだけど」


 席を立った私を小百合さんが引き留めた。


「なんですか」


「私のマネージャーになってよ」


「マネージャー……はぁ!?」


 叫びにも似た大きな声を出してしまった私。


「あははっ」


 呑気に笑っている小百合さん。


 本気かそれとも、

「冗談ですよね」


「本気だよ」


 冗談じゃなかったっ。


 本気でした!


 この後私がどんな選択肢を選んだのかは、また別のお話し。


 ただ、百合さんに振り回される日々は、まだまだ始まったばかりのようです。


 あとですね、私が彼女を振り回す側になる道のりは険しそうです。

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