エピローグ

一目惚れ *小百合*

*小百合*


 一目惚れなんて信じて無かった。


「初めて見た瞬間にね、恋に落ちちゃったの!」


 友人の話を笑顔で聞きながら、ゴミみたいな衝動だと思ってた。


 なのに。


「お店結構変わったなあ……あっ、ここは変わってないんだ」


 韓国から日本に帰ってきて。


 暇つぶしに街をぶらぶらして。


 偶々立ち寄ったカフェ。


 お客さんは誰もいない。


「いらっしゃいませ」


 営業スマイルだとわかっていても、目を奪われてしまった。


 外の日差しよりも明るいその笑顔。


 ミディアムボブの髪。


 少し丸顔で、長い睫毛が特徴的な瞳。


 そこら辺のアイドルよりも、今まで関わってきた誰よりも可愛い。


 カラダ中の血が騒ぎだすのを感じる。


 これは、まさか。


 目を大きく見開いていた私を不審に思っただろうに、

「……お客様?」

 彼女は笑顔を崩さなかった。


 一目惚れだ。


「ご注文は」


 慌ててメニューを見るけど、文字が全然頭に入ってこない。


「おすすめは」


 こういうときは店員さんに直接聞くのがいい。


 声をもっと聞きたかったし。


「うーん。コーヒーですね」


「成程」


 メニューのコーヒーを指差しながら、彼女は言った。


「苦いのがあんまり得意じゃなくって」


 ところで、名前はなんだろう。


 制服に目を向ければネームプレートがつけられていた。


 麗奈、か。


 顔も可愛くて名前も可愛い。


 声も可愛い。


 完璧すぎる。


「でしたら、カフェラテはいかがでしょうか」


 私の視線に気づいているのか、いないのか。


 彼女は坦々とそう言った。


「じゃあそれで」


「かしこまりました」


 これが私と麗奈ちゃんの出会い。


 それから何度も店に通うようになって、どんどん彼女に惹かれていった。


 沼にハマるがごとく。


 軽蔑していた感情を受け入れ、毎回麗奈ちゃんを観察した。


 順応性高い方なんですよ。


 でも、告白される側だった私が、告白する側に回るなんて思いもしなかった。


 これでもね、小さい頃からずっとモテてきたんですよ。


 韓国でも。


 あぁ、どうすれば麗奈ちゃんは私のものになってくれるかな。


 太陽みたいに明るい笑顔。


 その笑顔を自分にだけ向けて欲しい。


 だから渡し続ける。


 連絡先を書いたメモを。


 今までの人生で、欲しいものは必ず手に入れてきたから。


 貴女を落としてみせる。


 絶対に、ね。


終わり


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