第12話 変わらないことと確認

「にしても麗奈ちゃん、私の正体にも、話しにも全然動じないね」


 それを貴女が言うか。


「小百合さんもじゃないですか」


 動じず、落ち着き払っていた貴女が。


「わっ、初めて名前呼んでもらえた!」


 前言撤回。


 嬉しそうにぴょんっと飛び跳ねた彼女は、先ほどのさとちゃんを思い起こさせた。


 こんな一面もあるんだなー。


 意外な一面が発見できて嬉しい。


 え……嬉しい?


 嬉しいって思っちゃってる!?


 たしかに、この人に関心を持っている。


 それは認める。


 でもでもでも、それ以上でもそれ以下でもなかったはず。


「この前一緒に来た金髪の人がいたでしょ?」


 自分で自分に戸惑っている私を置いてきぼりにして、小百合さんは話し始める。


「あの人、芸能事務所のお偉いさんでね。声をかけてもらったんだ。先週来れなかったのはさ、諸々打ち合わせとか段取りとかで忙しかったからなんだよねえ」


「……ほう」


 そういえば前にブロンドヘアの美人さんと一緒に来てたな。


 あの人、芸能事務所で働いているんだ。


 先週来れなかったのは、このお店に飽きたからじゃないんだ。


 私に興味がなくなったからじゃないんだ。


 よかった。


 じゃなくて!


 なーにが「よかった」だ。


「日本で、芸能界に復帰するんですよね?」


「ん? そうそう」


 不思議そうに首を傾げる小百合さん。


 それなら、

「私に連絡先渡してくるの、ダメじゃないですか?」


「え、なんで?」


「なんでじゃないですよ」


 この人馬鹿なのか。


「問題になるでしょ」


 韓国でどれだけ人気だったかは知らないけれど、日本の芸能事務所から声がかかるってことは、そこそこに人気があったはず。


 そんな人が女を口説いているだなんて。


 どこぞの週刊誌にすっぱ抜かれたら……。


 って、その前に。


 もう一つ確認しないといけない。


「あっ、小百合さんが私と友だちになりたいっていうんだったら――」


 問題ないですよね。


 言おうとした言葉は、

「違うよ。口説いてるんだよ」

 ナイフのような鋭さでバッサリ遮られた。


「……おーん」


 頭を抱えてしまったのは仕方ないでしょ。


 なぁ、妹よ。


 彼女は私と友だちになりたいわけではありませんでした。


 ガッツリ下心ありありでした。

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