第4章 不変と変化

第11話 正体判明

 キャッキャ騒ぐさとちゃんを店長がキッチンへと引っ張っていく。


 うん、今はそれがいいと思う。


 舞い上がっちゃって接客どころじゃないし。


「それで、ご注文は」


 私だってびっくりはしたよ。


 まさか、この人が元アイドルだなんて。


「カフェラテで」


「かしこまりました」


 でも、普通に接客できちゃってる。


 アイドルとか芸能界に興味がないからかな。


 多くの人のように『推し』がいないからかなあ。


「で、これ」


 そっと差し出された紙。


「相変わらずですね」


 思わず苦笑してしまう。


 自分の過去が思わぬ形で暴露されたというのに、いつも通り連絡先を渡してくる小百合さん。


 物事に動じない。


 そういうところ、好きかも……しれない。


「別に今は芸能人じゃないからねえ」


 彼女も苦笑していた。


「それに、元K-POPアイドルだってバレるの初めてじゃないし」


「ですよね」


 いくら芸能界に疎い私だって知ってる。


 最近、日本でも韓国のアイドルが人気だって。


 そりゃ身バレするよなあ。


普通に一般人だし」


「あはは」


 笑ってしまった。


 拗ねた口調で言うもんだから。


 あまりにもおかしくって、可愛らしくって。


「って、今は?」


 何故かその言葉に引っかかりを覚えた。


 芸能界を引退したから一般人。


 そういう意味で合っているはずなのに。


 今は、という言葉が強調されていたのは気のせいだろうか。


「あぁ……流石麗奈ちゃん、鋭いね」


「流石?」


 なにが「流石」なのか全くわかりません。


「あのね私、日本で芸能活動を再開するんだ」


「……ほう」


 気のせいじゃなかった!


「マジですか」


「マジマジ」


 無駄にウインクをしてくる小百合さんの顔を、じっと見つめる。


「ホントだってば」


 疑われていると思ったのか、言葉を重ねられた。


 あのですね、ウインクしちゃうから胡散臭いだけで、信じてないわけじゃないんですよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る