第9話 待ち人来る

「さとちゃんコーヒー飲める?」


「あっ、はい!」


「んじゃあ淹れるね」


 大して働いてもないけど、店長なりの歓迎。


 営業時間後にやればって?


 それはそう。


 でもいいじゃん。


 今、お客さん一人もいないんだから。


「私が淹れますよ」


「いいのいいの。私が飲みたいんだから」


 動こうとした私を手で制して、店長はキッチンへと下がった。


 流石だなあ。


「私が飲みたい」


 と、言うことで誰にも気をつかわせない。


 私もああいう大人になりたい。


 既に24歳。


 とっくにいい大人ですが。


「お待たせ」


 数分後、店長は3人分のコーヒーを持って来てくれた。


 運ぶぐらい私がすればよかったなあ。


 時すでに遅し。


「いただきます!」


 今気づいたんだけど、さとちゃん、語尾に全部ビックリマークがついているような感じがする。


 元気いっぱいでいいな。


「いただきます」


 3人でテーブルを囲み、コーヒーを飲む。


 うん、美味しい。


 苦いだけじゃない。ほのかに感じる酸味。


 他のお店のコーヒーを飲んだことはあるけれど、店長が淹れたものには敵わない。


 身内贔屓びいきでしょうか。


 そんな、まったりした空気が流れる店内に、

「あっ」

 店長の声が響いた。


「外」

 くいっと首をドアの方へ動かした店長につられて外を見る。


 そこにいたのは、

「あっ……小百合さん」

 一週間来なかったウルフカットの女性。


 今日も日差しに照らされ、アッシュグレーの髪が輝いている。


 私に向かって手を振った彼女はドアを押す。


 カランカラン。


 そして、

「久しぶり、麗奈ちゃん」

 柔らかく笑った。


「いっ、いらっしゃいませ」


 慌てて席を立ちながら、その笑顔にほっとしたのは。


 胸がどくんと脈打ったのは。


 どうしてなんでしょうね。

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