第8話 THE 陽キャ

 開店時間になってもお客さんが来ない。


 普段なら暇を持て余すけれど、今日は違う。


 さとちゃんに接客の仕方、レジの使い方などを教えていく。


 その度に、

「わかりました。ありがとうございます!」

 と笑顔でお礼を言う。


 ホントにわかってんのかな。


 と、心の中で毒づいた私を許してください。


 漸くやって来たお客さんの接客を隣に立って見守っていたら、完璧だった。


 そりゃまごつくこともあったよ。


 でも、些細なミスにすぎない。


 すみません。


 この子は優秀です。


 しかも根っからの陽キャなのか、

「初めまして! 今日から働かせてもらうことになった、さとです!」

 常連のお客さんに挨拶しまくっていた。


 人見知りって言葉を知らないのかな。


 凄いな。


 私が働き出した頃とは大違いだ。


 いきなりお客さんに、気さくに話しかけられやしなかった。


 凄いわ、この子。


 そんな風にさとちゃんに関心しつつ、私の心はドアの外に向けられていた。


「あのぉ……麗奈れいな先輩」


 お客さんがいなくなった店内。


 テーブルを拭いていたらさとちゃんに声をかけられた。


「ん、どうしたの?」


 眉をハの字にして、視線を彷徨わせる彼女。


 言葉を選んでいるみたいに。


 はて? なんかやらかしたかな、私。


「なんかソワソワしてません?」


「……」


 新人ちゃんに見破られるなんて。


 ショック。


 そんなにソワソワしてるのか。


「なにかありましたか?」


 不安そうに尋ねてくるさとちゃん。


 多分、自分がなにかやらかしたと思ってるんだろうなあ。


 手を止め、彼女に向き合い

「ううん。なんでもないよ」

 極めて優しくそう言った。


「はぁ……良かったです」


 表情をコロっと変え、向日葵スマイル。


 うん、貴女に原因があるわけじゃないんだよ。


 これは私の問題。


 違うな、私と、小百合さんの問題。


 勝手に責任負わせて申し訳ないですけどね、これぐらいいいでしょ。


 私の調子が狂ってるのは彼女のせいなんだから。

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