第2章 離れてわかること

第4話 来ない

 晴れの日も雨の日も、飽きずに毎日やって来ていた小百合さんが来なくなった。


「二日連続で来ないなんて珍しいね」


 店じまいをしながら店長が言った。


「そう……ですね」


 テーブルを拭きながら答える。


「仕事が忙しいんじゃないですか」


「気にならないの?」


「気にならないですね」


 無関心を装って冷淡に答える。


 でも、店長の目は誤魔化せなかった。


「嘘つけ。昨日も今日も、心ここにあらず、って感じだったくせに」


「……」


 ぐうの音も出ない、とはこのことだろうか。


 たしかにこの二日間の私はやらかしてばかりだった。


 段差のないところでつまづいて床に水をぶちまけた。


 窓の外を眺めていればひょっこりあの人が姿を現すんじゃないか。


 上の空になって、オーダーを何度も聞き返した。


 グラスやお皿を何枚か割った。


 幸いなことに、お客さんに大きな迷惑はかけていない……はず。


 店長にはガッツリ迷惑をかけてるけど。


「麗奈ちゃんのためにも、お店のためにも、早く来てくれるといいねえ」


「そうですね。本当にすみません」


 なんで私は彼女に、こんなにも振り回されているんだろう。


 たった二日来ないだけでこのざま。


 自分が自分じゃないような感覚。


 なんだこれ。


 誰か答えを教えてほしい。

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