第3話 ほんの少しの意地悪

 2人は窓際のカウンターに並んで仲良さげに飲んでいた。


 どういう関係なんだろう。


 いや、私にはどうでもいいことだし。


 無関係だし。


 頭をグルグルと回る興味を振り払うように仕事に集中していたら、

「今日も美味しかったよ」

 いつの間にか二人は飲み終えていた。


「それは良かったです」


 因みに、今日も連絡先のメモを頂いている。


 めげないなあ。


「連絡待って――」


「ねぇねぇ」


 いつも通りの言葉を言おうとした小百合さんを遮ったのは、ブロンドヘアの美人さんだった。


「今度ご飯行かない?」


「はい?」


 嘘でしょ。


 この人までも、私の平凡な日常をを壊して……いや、違うな。


 片方の口角が上がり、ちょっと意地悪そうな顔。


 多分、小百合さんが私に対して好意を持っていることを知っているからこそ。


 これは乗っかるしかないな!


「いいですね」


 頷けば、更に上がる口角。


「だってさ、小百合」


 確信。


 小百合さんの気持ちをかき乱そうとしている。


「なんでよ!?」


「なんでって……ねえ?」


 私の方を見てニヤリと笑った美人さんに、思わず私も口角が上がる。


 いつも冷静にカッコよくキメて店を出る小百合さん。


 こんなにも慌てる姿を見られるなんて。


 ウルトラスーパーレア。


 滅茶苦茶面白い。


「いやいやいやいや、私の誘いは断るのになんで!?」


 いいですね。


 非常に愉快です。


「あははっ」


 堪えようと思ったけど無理。


 オロオロしている姿があまりにも面白くて、可愛らしくて、声を出して笑ってしまった。


「おっ、麗奈ちゃん。そんな表情で笑うんだねえ。いつもの接客スマイルも好きだけど、そんな風に笑っているのも好きだわー」


 やらかし。


 本性を見せるつもりなんて一ミリもなかったのに。


「可愛いよね。私がもらってもいい?」


「だからダメだってばっ」


 まぁいいか。


 目の前でたわむれる二人を見ながら、心の中で苦笑する。


 私の前では冷静沈着な小百合さんのレアな姿が見られたし。


 美人さんの冗談のおかげで、平凡な私の日常に侵入しようとしてくる小百合さんへの仕返しができたし。


 これぐらいの意地悪は許されるでしょ。

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