第2話 ゾンビメール
八重瀬さんの話では、最初は質の悪い誰かの悪戯だと思ったそうである。まあ、当然だろう。普通、死んでから三ヶ月経った人からメールが来るとは思えない。誰かがメールを預かっていた可能性も低いのだ。何故なら……。
「祖父は脳卒中で倒れてから、手足がまともに動かせず、言葉もうまく話せない状態で、ずっと入院していましたから」
「八重瀬さんが看病されてたんですか?」
「……恥ずかしながら、祖父が入院していたのを知ったのは亡くなる数日前でした。十五年間ずっと疎遠関係だったので……」
「差し支えなければ、事情をお話願えますか?」
八重瀬さんは中学生の頃、両親を事故で亡くしたらしい。叔父、叔母などの親戚は、八重瀬さんの引き取りを拒んだ為、父方のお祖父さんに引き取られたそうだ。既にお祖母さんは亡くなられていたので、お祖父さんは一人で育てる事に成ったらしい。田舎暮らしが慣れない八重瀬さんは段々と自分の境遇に嫌気が差し、不登校が続いたそうである。高校生の時には何度も家出をし、外泊続きの生活が続いたそうだ。そして高校を卒業するとお祖父さんの元から離れ、それ以降自分からの連絡を閉ざしたそうである。
「親戚や近所の方とも連絡は取ってませんでした。祖父は最初、心配して何度か頼りを寄越して来たりしてましたが、私が無視を続けていると、そのうち連絡も来なく成りました。風の便りで私が結婚した事や、子供が産まれた事は、知っていたかも知れませんが……」
「そうでしたか……」
「私も大人に成るに連れ、このままじゃいけないから会いに行こうと思うように成りましたが……結局祖父に会いに行ったのは亡くなる直前でした。祖父は何かを私に伝えたがってましたが、結局わらないまま息を引き取ったんです。だから心残りが有ったのかも知れません」
「だとしたらメールの内容は、お祖父様が死ぬ直前に伝えたかった、その内容ですかね?」
「たぶん……私は怖くてメールを開ける事は出来ませんでした。夫に頼んで見て貰おうとしたのですが、夫がタップしてもメールは開かないんです」
「……百条さんは、その事で何か言ってました?」
「百条さんもタップしてくれましたが、開きませんでした。たぶん、私にしか反応しないのではないかと……」
そう言って八重瀬さんは、カバンの中からタブレットを取り出すと、現物のメールを見せてくれた。
送信者名以外、タイトルも本文も見えない。
これでは悪戯だと思って削除するのは、当たり前だろう。
だが、このメールは完全削除しても直ぐに復活するらしい。
俺も試しにそのメールをタップさせて貰った。
やはり反応しない。
トユキさんの言う通り、八重瀬さん本人しか開けられないんだろう。
だとしたら、何が目的なんだ?
「祖父は私の事を恨んでるんだと思います」
「何故そう思われます?」
「私、両親が死んで引き取って貰ったのに、勝手な事ばかりして、しかも出て行ったきり連絡もしませんでした。結婚式も呼ばず、曾孫が出来た事も報告せず、入院しても看病もせず……見舞いに行った時見た祖父は、驚くほど痩せこけていました。まるで別人のように。祖父は藻掻くように必死で何かを言いたげでした。きっと私に『何で世話をしてくれなかったんだ。お前のせいでこう成ったんだ』と怒鳴りたかったんだと思います」
「……それはメールの内容を見てみないと分かりませんね」
「このメールを開けると祖父が出てきて、呪われるって事はないでしょうか?」
俺はどう答えたらいいか悩んだ。
本当にお祖父さんが八重瀬さんを恨んでるなら可能性がない事もないし……。
「開けてもらえ」
右耳に付けていたイヤホンからソコンさんの指示が聞こえた。
まあ、確かに何か有ってもモバが居るからな。
モバなら大概の霊的な物を追っ払ってくれる。
「大丈夫です。当方であなたを必ずお守りします。メールを開けてみましょう」
「けど……」
「このままじゃ前に進めません。お祖父様が安心して永眠する為にもお願い致します」
「……分かりました」
八重瀬さんは覚悟を決め、恐る恐る指を伸ばした。
緊張感が伝わり、俺も思わず固唾を呑む。
震える指でタップされた瞬間、メールが開いた。
その内容とは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます