File3 祖父からのゾンビメール

第1話 悪戯

「ソコンさん。スパムメールって保存しますか?」

「いいや」

「ですよね。すぐにゴミ箱に入れますよね。じゃあ、ゴミ箱に入れたスパムメールをわざわざ復活させますか?」

「何が言いたい?」

「俺はスパムメールを、ちゃんと削除したはずなのに、何故かお気に入りマーク付きで保存されてるんです」

「ふーん」

「『ふーん』じゃないでしょ! しかも最初無かった筈の鼠の画像が添付されてるんです。これって霊障ですよね? 犯人奴しか居ないけど!」


 最近ネコが、ゴミ箱漁りをするので有る。

 ゴミ箱漁りをする猫は、飼い猫でも野良猫でもない。というか生きた猫ではない。

 ゴミ箱も室内や屋外に置いたゴミ箱ではない。パソコンの中のゴミ箱である。

 ゴミ箱に捨てたスパムメールや必要ない過去のデータをわざわざ引っ張り出して来て復活させる猫が毎晩スマホにやって来るのだ。

 完全削除しても完全復活させるから厄介なのである。

 そんな事できる猫が、この世に一匹だけいるのである。いや、正確にはに一匹だけ居るのである。


「お願いですから朝から詰まんない片付け事させないで下さいよ」

「猫はストレスが溜まるとゴミ箱をひっくり返すんだ。もっと構ってやれ」

「ソコンさんの元飼い猫でしょ!」

「元な」

「何がストレスですか。ストレス溜まるの俺の方なんですが!」


 仕事場のマンションの一室で、俺の雇い主であるソコンさんと、そんなやり取りをしている最中、俺のスマホが「ニャア」と鳴いた。

 くだんの電子の化け猫モバだ。

 又、ゴミ箱に捨てたスパムメールを復活させやがった。

 お前はスパムメール業者の手先か?


「あーもう、又削除しないといけないのかよ」


 モバが復活させた、そのスパムメールを消そうとした瞬間、電話が入った。

 サイバー警察官の百条ひゃくじょう十雪とゆきさんからだ。

 ソコンさんの幼馴染みで、警察では手に負えない事件をコチラに回して来てくれる。

 警察が手に負えない事件とは、警察では解決の糸口が掴めない事件。犯人を見つけたり、捕まえたりする事が決して出来ない事件の事だ。

 つまり非科学的な事件である。

 パソコン、スマホに関する事件なのに……。


「ハロウ。ロックん元気してるん?」 

「元気じゃないです。鬱です」

「あらま。どったのよ?」

「モバが削除したスパムメールを復活させるんです」

「それはそれは。まさにゾンビメールね」

「ゾンビメール?」

「偶にお年寄りの方から相談を受けるのよ。復活するメールの事でね。削除したつもりが、アーカイブに移動してただけってパターンが多いんだけど、本当にマルウェアに感染してる場合も有るわよ。でも、今回私に相談に来た人は、どちらでも無かった。本物のゾンビメールよ」

「……削除できないメールですか?」

「そう。詳しくはご本人に聞いて。もう、そちらに向かってるわ」

「分かりました。ありがとうございます」


 数分後、その方から連絡が有り、直ぐに事務所に来てもらう事にした。

 ソコンさんは隣の部屋に移り、モニターで監視する。

 やがてチャイムが鳴り、俺はその依頼主の方を事務所内に招き入れた。

 三十代位の女性だ。

 髪を後ろで束ねており、服装を見た感じからも主婦に思える。


「はじめまして。八重瀬やえせと申します」

「はじめまして。斎波素近相談事務所の穴戸です」

「百条さんからは、何か聞かれてますか?」

「受信メールが消えないとは、伺っております」

「はい。そうなんです。実は祖父からのメールが、どうしても消えないんです。削除しても、削除しても復活しちゃうんです……」

「送信者は、あなたのお祖父様ですか?」

「はい。祖父から一週間前に送られて来たメールです」

「……失礼ですが、お祖父様はご健在ですか?」

「いいえ。三ヶ月ほど前に亡くなりました。亡くなった筈の祖父からのメールです」

「誰かの悪戯の可能性はないですか?」

「たぶん……解約していた筈の祖父のスマホに、送信履歴が残ってましたから……」

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