第8話 エピソード⑨
「まだ読むんじゃない! もし、その小説が未来予知じゃ無かったのなら、俺達の行動は逆手に取られてしまう。まずはここを出る事が先決だ」
俺は彼女を安心させる為にも、拾ったベレー帽を頭に被せ、空いてる方の手を強く握った。
彼女も強く手を握り返す。
このまま死ぬ気が無い証だ。
林道に戻った俺達は、急いで来た方角に進んだ。
足場の悪い暗闇でも、五分と掛からずに林道入口前に着く。
そうすれば民家の灯りや街灯も見えるのだ。
そこでソコンさん達に連絡を入れよう。
そう思ったのだが……。
「あれ?」
おかしい。
もう、五分以上歩いてるのに、一向に民家の灯りや街灯が現れない。
林道入口に辿り着かない……。
「ロックんさん……あれ……」
ミロロちゃんに言われ、指差す方角を見る。
そこには先程の石像が見えた。
あり得ない……。
絶対にあり得る筈がない。
俺達は確かに林道に戻って、一本道を歩いていた筈だ。
なのに何で元居た場所に引き返してるんだ?
「ロックんさん。マップがおかしな事に成ってます」
ミロロちゃんがタブレットで地図アプリを開いていたので俺も覗いてみた。すると俺達の居る場所が見当たらない。
つまり地図だけが映っている。
俺達の居る場所が反映されてないのだ。
「位置情報も狂わされている。どういう事だ?」
「私達、神隠しに有ってるんじゃないでしょうか?」
「神隠し?」
「コヨリンが言ってましたぁ。幽霊や妖怪は、山の中の方が霊力が強く成り、その力を最大限に発揮するそうですぅ。結界を作って中の人間を出られなくしぃ、外部からも入れなくするそうですぅ。昔から天狗や鬼が人を攫って行方不明にさせる話が沢山語り継がれてますぅ。ミロロとロックんは、夜亡夜亡さんの結界の中に閉じ込められたんだと思うんですぅ」
そ、そんな……いや、これは奴の電波攻撃だ。
俺達は夜亡夜亡に何らかの電波を脳に送られ、三半規管を狂わされているんだ。
どちらにしろ、このままじゃココを抜け出せない。誰かの力を借りないと……。
その時、俺のスマホが鳴った。
ソコンさんからだ。
「ソコンさん、ちょうど良かった。ミロロちゃんを発見しました」
俺はモバが消えた事も含め、現状を報告した。
「チッ。まずいな……」
「夜句間とは、まだコンタクトが取れないんですか? 奴とコンタクトが取れれば、この状態が解除できるのでは?」
「無理だ」
「えっ?」
「奴はもう居ない」
「どういう事です?」
「コンタクトが取れるほどの意志はもう無い。霊魂エネルギーとして成してないんだ」
「意味が分かりませんが?」
「宗教的に言えば、地獄に逝っちまったって事だ。もしくは違う物に転生したと言えばいいのか?」
……って事は、夜亡夜亡の正体は、夜句間じゃない。
いや、確かにおかしいとは思っていた。
死刑囚の夜句間がウェブ小説サイトを利用するはずが無い。奴はウェブ小説サイトの存在すら知らないまま死刑が執行された筈だ。
そんな夜句間がデジタルスペクターに成って、ウェブ小説サイトに取り憑くのも変な話だ。
だとしたら……だとしたら夜亡夜亡の正体は……。
「ソコンさん。ここで殺された倉島夕夏さんは、生前ライターを目指していたそうです。まさか夜亡夜亡の正体は……」
「可能性は有るな。調べてみる。どちらにしろ俺もそっちに向かうから、それまで何とかしろ」
「早く来て下さいね」
「とりあえずミロロに小説を見せて貰え。何か正体が分かるヒントが有る筈だ。分かったら俺かトユキに連絡を入れろ」
「分かりました」
俺は一旦スマホを切ると、ミロロちゃんに夜亡夜亡の小説【とある少女の九つの結末】を見せてくれるようお願いした。
だが、彼女は頑なに拒否した。
「み、見たらロックんも取り憑かれるかも」
「構わない。もし無理なら朗読でも構わない」
「ろ、ろ、ろ、朗読?」
「そうだ。しっかり一言一句間違わないよう読み上げてくれないか?」
「あ、あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
握っていた手が熱く成っている。
何か火照っている感じだが、大丈夫か?
「その小説の主人公……つまりミロロは、すんごい恥ずかしい事されるんですけど……」
「はい?」
「ウ、ウェブ小説で使ったら一発でBANされちゃうエロエロ単語連発で、エチエチ度マックス表現で書かれてるんですぅ。そ、それをミロロに朗読させるつもりですかあ?」
そ、そうか!
それで見せたく無かったのか。
そりゃ自分がそんな事されてるシーンを男性に想像されるの嫌だわな。
流石は非モテの邪鬼に取り憑かれてる俺。乙女心を理解してませんでした。
てか、君……そんな過激なエロ小説を最後まで読んでたの?
「ご、ごめん。変な描写部分は見せなくていいから、少しだけでも読ましてくれないか?」
「じゃあ、エピローグの部分だけ……」
そう言ってミロロちゃんはエピソード⑦のエピローグ部分だけを開けて見せてくれた。
俺が出てきて殺されるストーリーだ。
[最後の望みも消えてしまった。その霊媒師は、大した霊力なんか持ち合わせていなかったのだ。「どうして私はあの事務所に行ってしまったのだろう」「私の為に……私の為に誰かが死ぬんだ」少女の思う通り、結末は絶対に変わらない。誰かに頼れば犠牲者を増やす。アカシアの記録には逆らえないのだから。少女は見えない誰かに、串刺しに成った霊媒師の前で虐待を受けながら、その短い生涯を嘆きながら閉じた。あの時の娘のように。〈完〉]
「ここに書かれてる霊媒師は、俺の事?」
「はぁい。本文の方に書かれた特徴が、ロックんさんそのままでしたぁ」
それを聞いて俺は直ぐに確信した。
夜亡夜亡には未来予知の能力なんか無い。
嘘をついてたんだ。
だとしたら目的は……目的は何だ?
ミロロちゃんを山に誘った理由は……。
俺はもう一度そのエピローグを読み直した。
そして有る事に気付いてトユキさんに慌てて電話した。
道に迷わされてるなら、捜索隊に探して貰えば良いんだ。
そして確かめたい事が……。
「あっ! トユキさん! ミロロちゃんと合流しました! はい。至急捜索班の方をこちらにお願いします。それと一つ調べて欲しい事が有ります……」
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