第6話 エピソード⑧

「駄目です、ソコンさん! 電話に出ません!」

「まさか新しい小説が更新したんじゃないだろうな」

「新しい小説? まだ真夜中じゃないですよ」

「真夜中にしか更新しないとは限らないだろ。デジタルスペクターに昼夜は関係ない」

「じゃあ、今回公開された小説は……」

「俺達、電網霊媒師も一緒に死ぬ内容なのかも知れないな」


 だとしたらミロロちゃんは……ミロロちゃんは俺達が巻き添えくらわないように、別の行動を選んだ可能性が有る。次に取る行動は……まさか……。


「俺、今から山に向かいます!」

「待ってロッくん! あの山に向かったとは限らないわ」

「どうしてです?」

「今回のデジタルスペクターの正体が、もしも夜句間だとしたら、犯行現場はバラバラよ。別の場所に呼びつけてるかも知れない」

「あっ、そうか。どうしましょう?」

「とりあえずミロロちゃんの自宅に電話してみるわ。もしミロロちゃんが現在外出しているなら署に連絡して緊急捜索してもらう」

「ありがとうございます」


 ソコンさんのパソコンから「ニャーオ」という声が聞こえた。

 待ちかねたぞ、モバ。良かった。これでミロロちゃんの行方が分かる。ミロロちゃんはタブレットを離さず持っているだろうからな。


「駄目だ。モバが行きたがらない」

「へっ?」

「チッ。奴め、タブレットに何か仕掛けてやがったな」


 どういう事だ?

 まさか、モバが怖がってミロロちゃんの元に行きたくないのか?

 ずっと留守にしてたのも、まさか怖がって逃げてたのでは?

 そんなにヤバい奴なのかよ、夜亡夜亡は!


「ソコン! ミロロちゃんはやっぱり自宅に居ないわ! 今すぐ特異行方不明者の手配する」

「ソコンさん、車貸して下さい! 俺、やっぱり山に行ってみます!」

「一人で行くのか?」

「はい。ソコンさんは何か有った時の為に、ここに残っておいて下さい。あと夜亡夜亡の正体が夜句間か調べといて下さい」

「言われなくてもやってる。お前さんはアシスタントだぞ。指揮は俺が取る」

「あっ! す、すいません……」


 ソコンさんは、そう言いながらも車のキーを俺に投げて来た。俺はキャッチしながら既に扉に向かって走っている。その時、俺のスマホが「ニャア」と鳴いた。


「モバを連れてけ。何か有ったら自分で判断せず必ず報告しろ」

「分かりました」


 エレベーターで一階まで降りると、駐車場まで駆けた。ソコンさんの黒いセダンを見つけると、勢いよく車の扉を開けて乗り込む。

 営業マン時代でも車は余り使ってなかった俺は、久しぶりの運転に少し緊張する。

 車を走らせながら頭の中で今回のデジタルスペクターの目的を考えていた。


 もしも夜亡夜亡の正体が夜句間なら、まだ殺人に未練が有り、人気のない所に誘導してから殺す気か?

 犯罪者の思考は分からないが、簡単に取り憑いて殺すよりも、自分の犯罪趣味に合わせて殺したいのだろうか?

 恐らく夜句間は騙された被害者を嘲笑いながら犯行を繰り返したに違いない。

 そんな相手とコンタクトを取り、交渉をする余地は有るのか?


 借りたセダンを、夕焼けに染まった山に向かって走らせる。

 中間地点を過ぎたぐらいで、俺のスマホが鳴った。

 一旦車をコンビニに停め、確認する。

 トユキさんからだ。


「ういッス。ロックん。今どの辺?」

「目的地まで残り八キロぐらいですかね。何か分かりました?」

「ロックんが向かっている場所で殺された被害者の名前が分かった。倉島くらしま夕夏ゆうか。当時十ハ歳。ミロロちゃんの現在の年齢と同じね。六人目の被害者で、夜句間が捕まって自供するまで死体が見つからなかったの。母親はずっと何処かで生きてると信じて、無事を祈ってたみたいなんだけどね……」

「そうなんですか……やはり外国人に成りすまして山に誘ったんですか?」

「みたいね。でも実は夕夏ちゃんは怪しいとは思っていたみたい」

「どういう事です?」

「彼女、実は小説家やライター志望だったの。どうも怪しいと感じながらも好奇心で誘いに乗ったみたい。ネタに成ると思ったのね。待ち合わせ場所には変装して行き、どんな人物が来るか遠くで観察してたらしいわ。けど犯人の方が上手で、観察してる所を捕まえ、車の中に連れ込むと、そのまま目隠しや猿轡をして山中まで運んで犯行に及んだみたい。夕夏ちゃんは母親にも『何かSNSで知り合った外人の人が、日本に遊びに来たので案内して欲しいってメール来た。本当に観光目当てかな?』とか言ってたそうよ」

「なるほど。好奇心で動いた点はミロロちゃんと一緒ですね。やはり関連性が高そうですね。夜句間ってどんな人物像か他に情報あります?」

「親しい刑事課の人がこの事件の担当だったんだけど、夜句間は罪の意識なんて全く感じてない様子だったって言ってたわ。裁判でも被害者の家族が傍聴席で泣いてても、それを見て笑っているぐらいサイコパスな男だったみたい」

「亡霊に成っても性格が変わらないなら……いったい、どうなるんでしょう?」

「今、隣でソコンがコンタクト取ってるみたいだけど、手こずっているみたいよ。とりあえず私もミロロちゃんを探しに今から出るわ。何か有ったら連絡ちょうだい。オッケぇ?」

「分かりました」


 俺はゾッとしながらも、一点気に成る事が有った。

 それは、夜亡夜亡の正体が夜句間なら、なぜ小説サイトを利用してミロロちゃんを呼び出すかだ。生前、外国人に成りすましてSNSを使って犯行を行なっていたのに、小説サイトを利用する理由は何だ?

 そうだ。どうしてもその部分が腑に落ちない。

 何か見落としてないか?

 夜亡夜亡の小説が読めれば、何かヒントがないか探れるのだが……。


 俺はコンビニで懐中電灯を買ってから再び車に乗り込んだ。

 再出発の前に昼間、コヨリさんの連絡先を聞いてた事を思い出す。


「そうだ。もしかしたらミロロちゃんと行動を共にしてるかも。そうで無くとも何処にミロロちゃんが居るか知ってるかも知れない」


 俺はスマホの電話帳を開けたが……。


「あれ?」


 登録したはずのコヨリさんの連絡先が消えている。確かに電話番号とメールアドレスを聞いて登録したはずだ。

 だが、探しても見当たらない。

 登録ミスなんか絶対にしていないのに。


「まさか……俺のスマホにも夜亡夜亡は霊障を起こしたのか?……」

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