第5話 ロマンス詐欺
「アイツ来てたのか……」
「コヨリさんとは、どんな関係なんです?」
「ただの他人だ。気にするな」
コヨリさんが帰ってから三時間後、ソコンさんが山から帰って来た。コヨリさんの事を詳しく聞こうとしたが、直ぐにはぐらかされて山での調査の話に切り替わる。
ソコンさんの話では、山道から少し離れた場所にそれらしい小さな石像を見つけたらしい。かなり古い物で、それが石碑だったのか、お地蔵さんだったのか分からない位に原型が崩れていたそうである。聞き込みやネットで調べても、石像の正体は結局不明のままだったそうだ。
興味深いのは、その石像の横に朽ちた花束が置かれて有った事だ。正確には花束を包んでいたボロボロのセロファンが残っていたという感じか。
「花を手向けたという事は、昔誰かがそこで亡くなったんですかね?」
「可能性は有るな。地蔵に飾るサイズでは無かったからな」
「事件で亡くなった方が居るなら関連性が有るのかも知れないですね」
そんな話をしている最中、けたたましくチャイムの音が繰り返された。
ドアを開けると鬼の形相のトユキさんが勢いよく入って来て、持っていたハンドバッグを飛んで行きそうなぐらいグルグル回しながら、ソコンさんの方へ突っかかって行った。
「ソコン! いったい何よ、また呼びつけてえ! 私は暇じゃ無いのよ! オッケぇ?」
「手伝えよ。その分事件が早期解決できるよう何時も協力してやってるだろ」
「はあ? そんな記憶ごさいませんがあ?」
「この間、ロマンス詐欺団のアジトを教えてやったろ」
「あれ? そうだったかしらん」
ロマンス詐欺って何だ?
トユキさんが探っていたって事はインターネット関係の詐欺かな?
「そうよ。ロマンス詐欺は、特殊詐欺の一種なの。身分を偽ってSNSやマッチングアプリで恋人を探してる人に近づき、恋愛感情が有る振りをしてお金を巻き上げようとする詐欺。厄介なのは国際ロマンス詐欺と言って、外国人が犯人のケースが多いの。この場合、犯人を特定するのがとても難しいのよ」
「なるほど。そんな犯罪者もモバを使えば簡単に見つけてくれるんですね」
「あれ? 化け猫ちゃんに頼んだかしらん? いやーん。記憶にないわ」
「しかし、ズルい詐欺師が居るんですね。非モテの邪鬼に取り憑かれてる俺なんか直ぐ引っ掛かりそうだ」
「本当よねえ。ピュアな恋愛感情を利用する詐欺なんて最低よ。今は生成AIで簡単に架空の美男美女の写真や動画が作れちゃうから、団体で役割を決め、日数を掛けながら恰も実在する人物かのように作り上げていくのよ。一人の美女の正体が、実は複数の禿げたオッサンが作った虚像の場合も多いの。こんな他人のロマンスを食い物にする極悪非道な犯罪は、地獄の果まで追いかけ、どんな手を使ってでも逮捕するべきだと思わない?」
何かトユキさん私怨が混じってる気がするんだけど……過去に何か有った?
「コイツ昔、『海外のスターとSNSで友達に成った』とか言って浮かれてたけど、実際は成りすました小学生の悪戯だった経験が有るんだよ」
「黙れ、ソコンー! その事は喋るなー! オッケぇー?」
うん。それはトラウマに成る。
「それよりトユキ。『ノベル・リドライ』という小説サイトの管理者に頼んで、ホラーを書いてるサイト利用者の個人情報を手に入れてくれないか。適当な事件との関連性をでっち上げて、公開要求したらいけるだろ?」
「アンタ、私の事をケルベロスやヤマタノオロチみたいな怪物だと勘違いしとらんか?」
「意味が分からないが」
「私のクビは一本しか無いって事よ! アンタの言う事全部聞いてたら、このクビ何本有っても足らんわ! だいたい警察だからと言って、緊急性がないかぎり簡単に開示請求できないのよ。裁判所を通す手続きが必要なの。オッケぇ?」
「チッ。まあいい。モバに頼むか」
そう言えば、まだモバ帰って来ないな。
何処で遊んでんだろ。
「ところでソコン。その子、コヨリの友達なんでしょ? 何でコヨリを宛にしないの?」
「さあな。依頼主は何か隠しているのかも知れん。例えばコヨリも巻き込んで死ぬ展開の小説も有ったのかも知れないぞ」
「まさか? コヨリが勝てない相手なんて、その予言小説の信憑性を疑うわね。もし、仮にコヨリが本当に勝てないのなら相当な悪霊よ」
えっ! あの子そんな凄いの?
あの、お御籤ガールが?
もしかしたらトユキさんは、あの子の手品に騙された口か?
あの時、知恵の輪がくっついていたのは、あの子が何処かに強力磁石を隠し持っていて、それを金属である知恵の輪に擦り付けたので磁気を帯、知恵の輪どおしがくっついただけなんですが。
俺は同じような磁気帯現象を利用した手品を見た事有るから、直ぐにタネが分かったが。
「トユキ。あの山の言い伝えとか、殺人事件、死亡事故を知らないか? 何か絡んでいる気がする」
「言い伝え? 確かあの辺は、鬼や天狗の神隠しみたいな古い伝説が有るわね。うーん、殺人事件ねえ……あっ! 思いだした。七年ぐらい前に有ったわ」
「どんな事件だ?」
トユキさんはバッグからタブレットを取り出すと、検索を始めた。しかめっ面をしてるので余り思い出したくない事件かも知れない。
「
「あー、その事件覚えてます。自宅にも女性の惨殺死体を隠してたんでしょ? 残虐極まりないとかで、毎日ニュースでやってましたね」
「そうなのよ。犯行手口は、さっき言ったロマンス詐欺みたいに外国人に成りすましてSNSで仲良く成ってから山や人気のない場所に誘い、暴行してから殺して埋めるというパターンが多かったみたい。あらかじめその女性がどんな男性が趣味なのかを調べとくみたいよ。例えば韓流好きの女性の場合は韓国人に成りすまして近づくみたいな。計画性が強く、余りにも身勝手で残酷な行為だったので、裁判では極刑が言い渡されたわ」
「そうでしたね。テレビで見てて、残された被害者の親族の方々が本当に可哀想だったの覚えてます」
「ちょーと待って。確か……」
トユキさんは改めてタブレットで何かを調べ始めた。そして……。
「やっぱりそうだ! 犯人の夜句間、五日前に死刑が執行されてる!」
「えっ?」
まさか……それじゃあ、まさか夜亡夜亡の正体は、連続強姦殺人犯?
だったら……だったらミロロちゃんを山に誘う目的は……。
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