第3話 いくつかの謎
「ソコンさんは、どう思いました?」
「アカシックレコードの事か?」
「本当に存在するんですかね?」
ミロロちゃんは明日、再び事務所に訪れる事を約束して帰った。
俺は心配なのだが、ソコンさんは大丈夫だろうという。
帰る前に夜亡夜亡の正体は、必ず今日中に見つける約束をした。
沢山の謎を解明する必要が有るが、まずは一番の謎、アカシックレコードを本当に夜亡夜亡は見たかだ。
「本当に存在するかは知らんが、霊能者の中にはアカシックレコードに交信して、未来や過去の情報を引き出す奴が居ると聞いたことは有るな。けど、生命の結末が九つだとかは、俺も初耳だぞ」
「ソコンさんはアカシックレコードから情報を得れないんですか?」
「俺の交信方法はパソコンだけだ。近くにパソコン環境が有れば、例えデジタルスペクターでなくても霊的な物とは交信できる。だが、海原とか通信基地から離れた無人島に留まっている霊との交信は無理だ。宇宙だの異世界だのといった所とは尚更交信は取れない」
「夜亡夜亡は、なぜ山に誘うんだと思います?」
「さあな。調べてみるか」
「じゃあ俺、その石像が本当に存在するか、実際に見てきます」
「いや、俺が行こう。車で行った方が速いしな。たまには外出しないと体が腐っちまう」
「俺は何をしましょうか?」
「とりあえず留守番だ。あと、その小説サイトに夜亡夜亡に近い人物が居ないか調べとけ。後でトユキを呼び出して手伝わせる」
「分かりました」
「外出するなら鍵を掛けとけよ」
そう言ってソコンさんは珍しく自らの足で調査に向かった。
俺はその間、ウェブ小説サイト『ノベル・リドライ』を開いて調査する。
このサイトは誰でも自由なスタイルで物語が書け、そしてその誰かが書いた物語を誰もが読めるという、小説好きには嬉しい無料サイトだ。
五年ほど前に開設されたから、まだ比較的新しい。こういった新設サイトからも、既にベストセラー作家が生まれていると聞く。
小説のジャンルは多種に分かれているが、やはり人気なのは異世界ファンタジーや現代ファンタジーで、ミロロちゃんが書いてるホラーは、ウェブ小説の中ではどちらかと言えばマイナージャンルにあたる。
ミロロちゃんが帰る前にもう一度タブレットを貸して貰えないか頼んだのだが、「今はコンテスト中で、作品を早く書かないと締め切りに間に合わなくなるから」という理由で、結局断られた。
ホラーは読み手の人が少ないので、一日サボると逃がした読者さんを取り返すのに大変なんだとか。
俺は夜亡夜亡の正体を探る為にも、一度ミロロちゃんの作品を読んでみる事にした。
「棘美呂々……有った! これか」
ミロロちゃんは四作品を公開していた。
ジャンルは全てホラー。
タイトルは以下の四つ。
[私の遺品を義理の兄と弟が取り合って困っています]
[匂わせ系バンパイア]
[死んだ彼氏と別れる方法]
[異世界最強溺愛士、骨と化す]
「……ホラーだよな? まあ、ちょっと興味を引くタイトルでは有るけど」
少し読んでみた。
ホラー小説素人の俺だが、読んだ率直な感想は、今すぐホラー作家よりラブコメ作家を目指すべきだと思った。
なんで、これ書いてて気絶するんだ?
確かにオカルト関連の知識は豊富みたいだが、さっきの会話からも空想癖よりも妄想癖の方が高い気がする……。
こんな事言ったら何だが、今回の相談も彼女の虚言じゃないかと正直疑いたくなった。
実際彼女しかその小説を見てない訳だし、彼女に霊的な物が憑いてると誰かが認めた訳でもない。
タブレットの中に霊的痕跡が残ってないか、モバに調べて欲しいのだが、ソコンさんの話では、モバは現在どっかに遊びに行ってるようである。だからまだ今回の依頼が本当のネット霊障なのかは結論が出ていない。
「しかし、モバが昼間に仕事場から離れるって珍しいな。朝、俺が怒ったからかな?」
俺は少しでも手掛かりが無いかを調べる為、ミロロちゃんのラブコメホラーをその後も読んだ。取り憑ついたのが元読者の可能性も有るので、フォローなどの履歴が残っている人も調べた。何か相手幽霊の琴線に触れる内容が書いて有ったのかも知れないから。
気付いたら二時間ぐらい経っていたので、目の周りをマッサージし、背伸びをする。
小説読みだすと時間が経つのが早い。
既に正午を回っていたので、俺は近くのコンビニに行って、昼飯を買ってくる事にした。
ミロロちゃんの小説を読んだ限り、これといった手掛かりは見つけられなかった。
夜亡夜亡は小説サイトに現れる位だから、生前小説好きの人だったのは間違いないだろうが、今のところ正体に辿り着けるヒントが少な過ぎる。トユキさんに過去の事件で関連するものがないかを聞いた方が早そうだ。
コンビニでおにぎりを二つとサラダを買ってから、事務所には十五分ほどで戻った。
そしてドアノブに鍵を差し込んで違和感に気付く。
「あれ?」
鍵が掛かっていない。
俺、鍵を閉めてなかったか?
いや、ちゃんと閉めた筈だぞ。
考え事をしながら外出したが、ドアノブを回して確認した記憶がある。
「あ、そうか。ソコンさんが入れ違いで帰ってきたんだ」
そう思って「どうでしたソコンさん。何か見つかりました?」と言いながら事務所の中に入った。
だが、ソコンさんは居なかった。
室内に居たのは、ソファーに座った髪の長い女性だ。
その女性は黙って俯きながら、何かをカチャカチャと弄っていた。
カチャカチャと……。
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