第2話 アカシックレコード

 ミロロちゃんの話によると、その小説のタイトルは【とある少女の九つの結末】という小説だったらしい。作者は夜亡夜亡よなよなと言う人だったそうだ。

 不思議な事にその小説は、作者の紹介ページごと翌日の朝には消えてたらしく、彼女の閲覧履歴にも残って無かったらしい。過激な内容だった為、運営に削除されたのだと最初は思っていたそうだ。

 だが、明くる日の夜中には小説は復活していたらしく、どうやらその小説は真夜中にしか現れない事が分かったそうだ。


 ミロロちゃんが先ず最初に読んだエピソード①は、とある少女がショッピング中、スマホに[●●山で待ってます]って着信メールが入るシーンから始まるらしい。

 この伏せ字の●●山は、最初気づかなかったが読んでるうちに実在する近所の山だと気づいたそうだ。

 物語の少女はそのメールを最初無視するつもりだったが、日頃から怖い物に興味が有った為、好奇心に負けてどんな人物がこのメールを送って来たのか遠目で確認しようと、山の近くまで行ったそうである。そこで先ずは変装しようとコンビニに立ち寄ってマスクと伊達眼鏡を買ったそうだ。そして山に入ると再びメールが有り[山中の林道に古い石像が有ります。そこまで来て下さい]との指示が届いた。少女は迷ったが結局石像の所まで行ってしまう。そこで少女は……それ以上はとても口では言えない残酷なシーンが続くらしく、結末としては少女は山の中で殺されて終わるのだ。


 問題はその小説を読んだ次の日だった。

 ミロロちゃんが昼間、繁華街で買い物をしてるとスマホに知らない人からメール着信があり、そのメッセージは小説と同じ[●●山で待ってます]だったのだ。ミロロちゃんは信じられない思いだったが、怖いながらも好奇心に勝てず、その山に向かう事にした。途中コンビニに寄ってマスクと伊達眼鏡を買おうとする。だが、ミロロちゃんはここで考えた。このままマスクと伊達眼鏡を買うと小説通りに自分は死ぬかも知れない。そう思ってマスクと伊達眼鏡じゃなく、包帯を買った。そしてミイラのように買った包帯を顔にグルグル巻きで覆い、そして山に入ったそうである。そしてやはり[山中の林道に古い石像が有ります。そこまで来て下さい]というメールが届く。ミロロちゃんはそのまま林道に入ろうとしたが、友人からケーキバイキングのお誘いの電話が入り、小説家のタマゴとしての好奇心も食欲には勝てなかったそうで、結局林道内には入らなかったそうだ。


「そしたら、その日の晩にエピソード②が公開されたんですぅ。内容は殆ど一緒でしたが、主人公は小説を読んだからマスクから包帯に変えたけど、結局殺されるという物語でしたぁ」

「うーん……なるほど、意識的に変えた所が修正されたのか。けど、その小説家は実在してて、あなたの事を知っており、何処かであなたを見ていたのでは?」

「それは無いですぅ。だって次のエピソード③が明らかに変でしたからぁ」

「どんな風に?」

「エピソード③は、②の直後に公開されました。今度のは主人公は山に包帯を巻いて入ろうとしたが、友達の誘いでケーキバイキングに行ってしまうんです。そして、その晩に公開された小説が自分の事だと気付いて、両親に相談しようと思ったら両親が家から消えているという内容だったんですぅ。そして、主人公は両親を返して貰おうと仕方なく山に入り、んで殺されちゃうんですぅ」

「まさか、ミロロちゃんの両親は本当に行方不明に?」

「いいえ。本当に消えたら嫌なので、小説の事は相談しませんでした。でも、相談しようと思った矢先に3つ目が公開されたんで、びっくりしましたぁ」


 なるほど。小説は未来予知みたいな物で、行動を変えると別の小説が現れるのか。どちらにしろミロロちゃんを山にいざなうようには仕向けてるな……。

 デジタルスペクターだとしても、果たして本当に未来予知なんかできるのか?

 未来予知のできる超能力者が死んで、デジタルスペクターに成ったとかか?


「アカシックレコードって知ってますぅ?」

「アカシックレコード?」

「この世が誕生してから、全宇宙全ての出来事を記録しているという、宇宙のスーパーコンピューターみたいなもんです。過去の事は勿論、未来の事も全て記録されてると言う人も居ます。よくSF小説や漫画に出てきますよ。実はそのエピソード③で、夜亡夜亡さんが語りだすんです。自分は死んで魂だけの存在に成ったからアカシックレコードを見れるように成ったと。そして全生命の未来は九通り有るが、それ以外の結末は無いと書いて有ったんですぅ」

「九通り?」

「はい。九つのパラレルワールドが有ると考えて下さい。ターニングポイントみたいなのが有って、そこで行動を変えると進む未来が変わるんです。つまりエピソード①は、何もせずそのまま山に入っちゃたミロロの結末です。だからその世界のミロロは既に死んでます。今は回避して来た七つ目の世界、エピソード⑦のミロロがココに居るわけですぅ」

「何か頭痛く成ってきたけど、ミロロちゃんは少なくとも既に六つのストーリーを読んだって事?」

「はい。次の日、山に入らないように色々変な行動したんです。夜に成ってエピソード④、エピソード⑤、エピソード⑥と続けて公開されたので読んだら、どれも結末はバットエンドに成ってて、結局ミロロは最後に死んじゃうんです。しかも助けを求めたら他人を巻き込むパターンばかりに変わってました」

「なるほど。それで、その小説の作者を止めるしか方法が無いと考えた訳ですね」

「はい。ミロロを山に誘って殺すのは、どうやら作者の夜亡夜亡さんの幽霊です。夜亡夜亡さんがミロロを山に誘わないようにしてもらわないと、ミロロの死ぬ未来は変えられないんですぅ。エピソードは現在進行形のエピソード⑦を入れて残り三つ。ミロロの運命はあと三通りしか有りません。助かる結末を電網霊媒師さんの力で切り開いて欲しいんですぅ」


 なるほど。確かに作者本体とコンタクトを取るしかないか。

 しかし、その運命が九つしか無いというのは、俄には信じがたいな。

 第一なぜ、その作者の亡霊はミロロちゃんを山に誘い、そこで殺そうとするのか。

 山に誘わないといけない理由が有りそうだ。


「分かりました。自分達もその小説を読みたいのですが、コピーとかは持ってませんか?」

「ふえっ? よ、読みたい? だ、駄目です。絶対駄目です。コピーなんか持ってません。それに、読んだらロっくんも呪われちゃいますよぉ」


 会ったばかりの大人を「ロッくん」って呼ぶのかよ。

 まあいい。ちょっと嬉しいから。


「その小説を細かい所まで読んで、相手を検証したいんです。その電子幽霊デジタルスペクターの目的が見えるかも知れません。夜中にしかその小説が現れないなら、一晩そのタブレットを貸していただけませんか?」

「こ、細かいとこまで読む? だ、だめぇ! 絶対だめぇ! タブレットは貸せません!」

「いや、しかし……」


 あーでも、確かに端末は関係ないか。

 俺がミロロちゃんのタブレットを持ったところで、そのデジタルスペクターは現れないだろう。取り憑かれたのはミロロちゃんなんだから。


「ご両親は外泊にうるさい方ですか? 紹介者の御友人と一緒で構いませんので、一晩ホテルか何処かで、一緒にその小説が現れるのを待ちませんか?」

「ホ、ホテ、ホテテテ、ホテルで一緒に閲覧? ムリムリムリムリムリムリ、ムリーッ!」

「そうですか……分かりました。では、とりあえず、こちらでその夜亡夜亡さんの正体を探ってみます。何か有ったら直ぐ連絡下さい」

「ふ、ふぁい……」


 興奮していたミロロちゃんは、耳まで真っ赤にしていた。

 よほど怖い内容の小説なんだろう。

 バレリアさんの惨殺死体が脳裏に浮かんだ。

 この子をそんな目に合わせる訳にはいかない。

 今度こそ誰も死なせず、助けてみせる。


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