第11話 四人目
三人目が亡くなり契約は解除された。
リナちゃんは直ぐに病院に搬送されたが、手当ても虚しく翌日に亡くなったのだ。
キラちゃんは逃げる事もなく素直に捕まり、現在は警察署にて黙秘を続けている。
事件の事も有り、エイトスロープは後日解散宣言が事務所から出された。
ヨドヤマエージェンシーは看板タレントが突如消えるという痛手を負う。
更に数日後、澱山社長が人身売買罪で捕まった。
元エイトスロープのメンバーを含め、十人以上の人間を海外で監禁し、違法労働させていたのである。
元エイトスロープのメンバーは、澱山社長と関わりある人達の接待をさせられていたようだ。監禁してまでさせる接待の内容なぞ、考えただけでも悍しい。彼女達が自由に成り、立ち直ってくれる事を祈るばかりだ。
そしてこの事からもヨドヤマエージェンシーは世間から批判を受けて経営自粛を余儀なくされ、仕事を失ったタレントやスタッフ達は事務所を離れて行った。
依頼主から解雇され、その依頼主も捕まった以上、この仕事は完全終了だ。
だが、俺はどうしても腑に落ちない。
オトハちゃんとランちゃんを自殺に見せかけて殺した犯人がまだ見つかってないからだ。
ソコンさんが梅地とコンタクトを取った所、彼は事務所から脅され、他県に逃げていたらしい。リナちゃんとメールのやり取りはしたが、彼も内容を本気には受け止めておらず、掲示板にはアイドルとメールのやり取りをした事を他人に自慢したかっただけなのだ。
彼はエイトスロープに会えない寂しさから逃亡先で
犯人は恐らく、梅地さんの事を知っていて、今回の呪いの犯人に仕立てる為に利用したと思われる。澱山社長に犯行予告みたいなメールを送った理由は、梅地が犯人だと思わせる為だったんだ。
では本当の犯人は……。
「穴戸さん」
「ミナミちゃん……」
俺が待ち合わせ場所の銅像の前でボーッと考え事をしてたら、不意に後ろから声をかけられた。ミナミちゃんは普段しない赤い縁の眼鏡をかけており、とても素朴で可愛らしかった。
「呼び出したりして、ごめんなさい」
「いいえ。推しのアイドルから呼び出されるなんて光栄です」
「もうアイドルじゃないですよ」
「あっ、そうでしたね」
ミナミちゃんは解散宣言後、事務所を辞めて芸能界から身を引いた。そして、ファンに対しての最後のメッセージには更に度肝を抜かされる事に……。
「彼氏がおられたんですね。この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
そうなのだ。
ミナミちゃんはエイトスロープが世間に迷惑をかけた事を詫びると、そのまま寿引退を発表したのだ。メンバーが三人も亡くなったのに、このタイミングで発表するのは不謹慎だとバッシングする人も多かったが、俺は彼女を責められない。なぜなら彼女も本当は、もっと前に引退して結婚をしたかったはずだ。だが、それは叶わぬ夢だったのだろう。スズちゃん達の末路を知っていたからだと思う。
「穴戸さんだけには、ちゃんと報告して謝りたかったの」
「いやー、聞いた時は本当にショックでしたよ。でも、ミナミちゃんの幸せは俺の幸せです」
「……そっか」
「これで阿国さんみたいに田舎に帰れますね」
「……うん」
ミナミちゃんは何処か寂しげだった。
マリッジブルーってやつか?
いや、そうじゃないや。
メンバーが三人も亡くなり、一人は捕まった。
「ねえ、穴戸さん」
「はい」
「呪いをかけた犯人……本当に梅地さんだったんですか?」
「いや、その事なんですが……実は自分の早とちりだったみたいです」
「じゃあ、犯人は別に居るんですか?」
「恐らく。ですがもう、依頼は破棄されたので探す必要性はないです」
「……そっか」
本当はそうは行かない。
ソコンさんはもう関わるなと言ってるが、もしもまだ呪いが残っているなら、元エイトスロープのミナミちゃん達が危ない。
諦めるのは、せめて犯人とその目的を特定し、彼女達の安全を確保してからだ。
「じゃあ、私、もういくね」
「はい。何か有ったら又連絡下さい」
「うん」
「今まで色々辛い事も有ったでしょうが、これからはその分も末永く楽しんで下さい。では、お元気で」
「穴戸さん……」
「はい」
「さようなら」
「はい。又、何処かで」
ミナミちゃんは涙目で別れを告げ、走り去って行った。
俺も泣きそうだったが我慢し、見えなく成るまで何時までも手を振った。
彼女は一度も振り返ることなく、人混みの中に消えて行く。
アイドルの舟木水美に対する推し活動はこれで終わるが、明日からは一人の一般人、水美さんとして彼女の人生を応援しようと心に誓う。
だが、それは叶わなかった。
なぜなら、彼女は翌日に服毒自殺をしたからだ。
結局、結婚相手も解らぬままに。
彼女はいったい、誰と結婚する予定だったのだろうか……。
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