第9話 秘密
「大門時、なんで関係ない奴がここに居んの?」
「い、いや、社長が雇った探偵だからね、自由に……その……」
「出てってよ。アンタが居るだけで空気がクセェんだよ。ここに居たかったら自前で空気清浄機持って来て」
「リナ。スタッフ以外の人に対して、君のイメージを悪くするような発言は……」
「大丈夫よ。コイツがSNSで呟いたとしても何の影響力も無いから。それに探偵なんだから依頼側の秘密は暴露しない。でしょ?」
「はい、勿論です。すいませんが、リナさん。臭わないよう部屋の隅に居ますから、どうかこの部屋に居させて下さい」
現在このミーティングルームには、俺と現エイトスロープのメンバー六人、そしてマネージャーの大門時さんを入れた八人が居る。
これから今後の活動を決めるミーティングが始まるのだ。
「昨日、大門時と話し合った。死んだオトハに変わって今日からアタシがリーダーだ。いいね」
昨日言ってたエイトスロープが生まれ変わるって、この事か。けど、キラちゃんは恐らく……。
「待てよ、リナ。アタイは反対だ」
「最下位に反対する権限ないね」
「繰り上がりのインチキトップにも権限ねえよ」
「てめぇには、足引っ張てる自覚ねえのか? この間のライブ、緑のペンライト振ってる観客一人も居なかったろ。アレは笑わせてもらったわ」
「お前のは、身体使って得た人気だろうが」
「はあ? もっペン言ってみな」
「あなた達! 未成年者も、部外者も居るのよ!」
リナちゃんとキラちゃんの取っ組み合いに成りそうな言い合いに、見かねたユカリさんが割って入った。元リーダーのオトハちゃんなら、まだキラちゃんも納得してたんだろうが、リナちゃんがリーダーに成る事は絶対認められない様子だ。
「よし分かった。多数決しよう。結果に不満がある奴は辞めればいい。はい、アタシがリーダーに成る事に賛成な奴は手を上げな」
コガネ、シラガネ、ユカリさんは同時に手を上げた。この時点で本人を入れると過半数を超えるので既に決した。
「反対する奴は辞めてもらうぞ。いいか?」
それを聞いてミナミちゃんが小さく手を上げたが、明らかに渋々だ。
「ミナミ! お前裏切んのかっ?」
「キラ、ここは我慢してアナタも手を上げて」
「ふざけんな! アタイは絶対に反対だ!」
「はい、時間切れな。キラ、てめぇはクビだ。大門時、社長に言って新メンバー三人追加するよう言っといて。とりあえずは五人で活動を再開する。明日は泣きながらの再開宣言だ。みんなちゃんと泣けよ、いいな」
「クズ野郎が……覚えてろよ……」
「てめぇまだ居たのか? 早く出ていけよ。何なら二人の後追って首吊っていいぞ。ハハッハハハハハハッ」
キラちゃんはリナちゃんを睨みながら退場した。それを見てミナミちゃんが立ち上がって後を追おうとする。
「ほっとけよ、ミナミ。それともお前も辞める?」
「説得してくる。みんなちょっと待ってて」
「待たねーよ。レッスンルーム行っとく」
まずいな。これで犯人は違和感なくキラちゃんを自殺に導く事ができる。
いや、待てよ……彼女が本当にエイトスロープを抜けたらどうなる?
呪いの対象が、本当にエイトスロープのメンバーだけなら、抜けた子は除外されるのではないだろうか?
なら、キラちゃんは助かる?
それならいっそ、エイトスロープ自体を解散してしまえば……うーん、そんな甘くはないか。
だが、どちらにしてもだな――。
「大門時さん。社長は今日、御在席でしたよね?」
「はい。五階の役員室に来られてます」
「今からちょっと会いたいのですが」
「あ、わかりました。連絡入れてみます」
俺はミーティングルームを離れ、エレベーターで五階まで行った。
役員室に入る前にスマホを確認し、深呼吸をしてからノックした。
返事があり、役員室に入ると、澱山社長は大きな机の上のパソコンで何やら作業をしていた。回りを見廻したが、社長以外は誰もいない。恐らく俺が来るので人払いをしたのだろう。
「どうですか。あれから進展は有りましたかな?」
「残念ながら、まだ……」
「全く見当はつきませんか?」
「その事なんですが、少しお尋ねしたい事が……」
「何でしょう?」
「メンバーに結婚を迫るメールを送っていた『ウメジ』さんって方はご存知ですか?」
「ああ、あのストーカーですな。最近は見かけなく成ったと聞いております。それが何か?」
「社長、もしくは社長の命令で、その人に何かしたという事は無いですか?」
「何かとは?」
「例えば命を奪ったとかです」
「物騒な発言ですな」
「失礼致しました。何しろ当方は霊媒師ですから。今回もネット霊障を起こす死人を断定しないと話が進みません」
「そのストーカーさんには警告はしましたが、それ以上の事は何もしていません」
「では、現在行方不明に成っている元関係者の方々で亡くなられた方は? そして監禁されている元メンバー達を解放してあげて下さい」
「……何の事でしょう?」
「しらばっくれないで下さい。華瀬鈴さん達は、今何処に居るんです?」
「君の仕事は呪いを掛けた犯人を探す事だ。余計な詮索する事は契約に入っていない」
「こちらも契約した以上、犯人は探します。秘密も出来るだけ厳守致します。ですが、目に余る違法行為を見過ごす訳には行きません。場合によっては、こちらから契約を解除させていただきます」
「君は立場を分かって無いのかな? だいたい君も身分を
「そうですね。但し当方は人助けをモットーとしております。こちらのモットーに反するなら、依頼主とて容赦しません」
「容赦しない? 今、君がどこに居るか分かっているかね?」
「貴方の手のひらの中と言いたいのですか?」
澱山社長はずっと余裕綽々な態度で喋っていたが、急に顔色を変え、目を剥きながらパソコンの画面を凝視しだした。パソコンの画面が触ってもいないのに突然切り替わったからだ。
「これは……いったい……」
「社長が反社の方々と密会している写真です。当方に何かあった場合、この写真がマスコミ各社に流れます。見ての通り自分はパソコンもスマホも触っておりません。自分は、どんな状況でも思い通りの場所に写真やデータを転送する事が出来ます。嘘だとお思いなら不正改ざんした決算書を今から税務署に送信しましょうか?」
「念写のようなものか? 流石は一流の高僧が一目置く霊能者だな。いや正直、侮っていたよ。大した人物だ」
その時、ポケットの中のスマホが振動した。
ソコンさんからの合図だ。
「失跡してる人の件、宜しくお願いします。では、これで失礼致します」
「待ち給え。君の契約書には、お互いの事が極秘だ。依頼通り誰も死ぬ事なく、犯人を見つける事ができたら報酬は倍額払おう。お互いの為にも、敵対するのは不利益だと思うが、いかがかね?」
「……失礼致します」
俺は返答せずに役員室を出た。
出た瞬間、足が震え、冷や汗がどっと出る。
それと同時に、スマホの中の猫が「ニャア」と鳴いた。
ナイスタイミングだったぞ、モバ。
うまくハッタリが効いた。
そうだよ社長。アンタの言う通り、俺は侮っていい人物だ。大した奴はモバさ。
お陰で社長に行方不明者を監禁している事を認めさせた。
あとは場所を特定して助け出してあげないと……先ずは、ソコンさんに報告だな。マイクを仕込んでたので話は聞いていたはずだ。
「あ、もしもし。ソコンさん」
「お前さんは馬鹿か! なに勝手な事言ってんだ!」
「いや、だって行方不明の方が心配だから……」
「まだ生きてるのに、お前さんが秘密を握った事で、口封じの為に殺されるかも知んねえんだぞ。お前さんがした事は逆効果だ!」
「あっ! す、すいません」
「俺達のやる事はデジタルスペクターの正体を暴く事だけだ。見つけたらこの件からは身を引く。後はトユキに任せろ。いいな」
「すいませんでした。出しゃばった真似して……」
そうだ。行方不明者が監禁されているなら更に危険に晒してしまう。ソコンさんの言う通りだ。迂闊だった。
「それより、トユキが匿名掲示板サイトでこんな物を見つけた。今からメールでお前さんにも送る」
ソコンさんから送られて来た内容はこうだった。
[推しのアイドルに結婚を申し込んだら「死ね」と返されました。「じゃあ死ぬ」と返したら、「どうせ死ぬなら私より人気が上の奴等を呪い殺してよ。そしたらあの世で結婚してやってもいいわ」と言われました。どうしたら良いですか?]
「こ、これは……」
「半年ほど前に投稿された物らしい。トユキは殺人と自殺行為の危険性があるとして、掲示板の管理者に頼んで情報を開示してもらったそうだ。投稿者の名は
見つけた……。
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