第6話 裏側
「犯人教えて欲しいか?」
「呪いという非科学的な事は別として、二人を自殺に導いた犯人が居るなら是非教えて欲しいですね」
キラちゃんは片方の口角だけを上げる不自然な笑みを浮かべた。こんな事言ったら何だけど、その姿はアイドルよりホラー映画のゾンビ役が似合いそう。
「リナだよ。あいつが呪いを掛けた犯人だ」
「リナさんが? なぜ、そう思われたんです?」
「あいつはオトハやランと友達の振りをしてただけさ。内心は自分より人気のある二人に嫉妬してたんだよ。リナクズはメンバーで一番野心家で腹黒いからね。一番人気の座を奪う為に呪い殺したのさ」
社長の話を聞く限りでは、届いたメール内容からして、呪いはエイトスロープ全員に掛けられたものだと思われる。もしキラちゃんの言うとおり、リナちゃんが犯人なら自分の呪いで自分も殺してしまう事に成る。一番人気が欲しいのに、自分まで死んでしまったら元も子もない。連続自殺がここで止まるのなら話は変わってくるが……。
「貴重なご意見ありがとうございます。自殺原因の参考にさせていただきます」
「信じてないな」
「い、いいえ。ただ、自分も探索を始めたばかりで、情報を集めてから判断致します」
「そうかよ。言っとくけど、グズグズしてると次の犠牲者が出るよ。リナクズはアタイやミナミも嫌っているからな」
「分かりました」
表面上はメンバー全員仲良く見えてても、裏ではギスギスしてたのかな。
残念だがトユキさんの言うとおりだったのかも知れない。
俺はエイトスロープの内情をもっと知りたく、何でも語ってくれると言ったユカリさんに話を聞く事にした。
このビルの2階には、所属タレントがダンスレッスンをする大きな部屋が有り、俺はそちらに向かう。
身分証を見せてその部屋に入ると、リナちゃん、キラちゃんを除く4人のメンバーがトレーニングウェアに着替えて振り付けの練習をしている姿が目に映った。
近くのスタッフさんに頼んで談話できる部屋を用意してもらい、ユカリさんをそこに呼んでもらう事にする。
やって来たユカリさんは、臍出しのセクシーウェアを着てたので、俺は目のやり場に少々困ってしまった。
「聞きたい事って?」
「はい。実はエイトスロープの内情です。言い難いかも知れないですが、表からは見えない裏側のエイトスロープの姿を教えて欲しいんです」
「……皆には絶対に黙っていてくれる?」
「勿論です。お約束致します」
「はっきり言って仲は悪いわ。私が加入して先ず思った事は、初期メンバーのオトハ、ラン、リナは三人でグループを作っていて、ミナミ、キラの二人を陰湿にイジメている印象をうけたわ。私達、ファンの取り合いに成ってしまうから、啀み合うのも仕方ないんだけどね。新参者の私とコガネ達はどっち付かず状態だけど、私の代わりに抜けたスズちゃんは、ミナミの方のグループだったと聞いてる」
完全に活発系と大人しい系に分かれてるな。学校でもよくある光景だ。あと、出身地も関係してるのかも知れない。ご当地アイドルだけど、ミナミちゃんとキラちゃんは他県の出身だもんな。
「私が思うには、家庭環境が似ている者同士でグループに成ってるって感じがする」
「と、言いますと?」
「私達、表向きは動画サイトを見た社長がスカウトして結成された事に成っているけど、本当はそれぞれ家庭の事情を抱えている子ばかりなの。私は親の借金を事務所に立て替えてもらっている。他の子の事情は私の口からは言えないので直接聞いてみて」
「すいません、なんか立入った事まで聞いてしまって……」
「ううん、ぜんぜん。昔は貧乏だった事がコンプレックスだったけど、今は良い生活させてもらってるから。事務所には逆らえない不自由さは有るけどね」
「他のメンバーの皆さんも、事務所に不満を抱いてるんですかね?」
「そうね。古いメンバーも辞めるに辞められない事情があるみたい。だから対立しあっていても、表向きは仲良くみせて続けないといけないの。辞めたメンバーも果たして幸せに暮らしているのかどうか……」
「……そうなんですか」
「ねえ、探偵さん」
「はい。何でしょう」
「オトハとランは自殺じゃなく、本当は殺されたんじゃないかしら?」
「どうしてそう思われるんです?」
「私、オトハが自殺した時、彼女のすぐ隣にいたの。彼女、お弁当を食べながらショート動画を見てたんだけど、本当に何時もと変わらない様子だった。なのに突然操られてるかのように立ち上がって自撮りをしだし、直ぐに柵を登って飛び降りた。あれ、もしかして催眠術じゃないかしら?」
「催眠術?」
「そう。誰かに自殺を促す催眠術の動画を見せられたのかも。オトハに自殺の動機が全くないとは言えないけど、あれはあまりにも挙動がおかし過ぎる。私、前に本で読んだんだけど、自殺したくない人に自殺を促す催眠術は効果ないけど、少しでも自殺を考えた事がある人には、催眠術の効果があるって書いて有った。もし私が思うとおり、あれが催眠術での殺人なら、犯人を捕まえる事なんて出来るのかしら?」
「その場合は間接正犯なのか教唆犯なのか微妙な所ですが、犯罪行為には成るでしょうね」
これはトユキさんに教えてもらった事だ。
今回の自殺が催眠術を使った犯行なら、術をかけた犯人は法律上捕まえる事はできるだろう。
だが、生きた人間がデジタルスペクターを使って呪い殺したのなら、立証は無理だ。
犯人が本当に生きた人間で、デジタルスペクターと協力して殺人を犯しているのなら……。
「オトハさん達が本当に催眠術で殺されたのだとしたら、ユカリさんは犯人に心当たりは有りますか?」
「……わからない……と、しか答えようがないわね」
「ごめんなさい。そうですよね」
「こちらこそごめんなさい。何でも答えると言ったのに、役に立てなくて……」
「いいえ。十分参考に成りました」
ユカリさんがレッスンルームに戻った後、俺はソコンさんに現状報告の電話をいれた。
「――と、いう感じです、ソコンさん。そちらは何か分かりました?」
「お前に教えてもらった三人を探してみたが、どうやら向こうの世界には行ってないようだ」
俺が教えた三人とは、
「契約期限はあと五日だが、それまでに死人が出たら契約は解除される。逆に早目に犯人を見つけても期限分までは全額もらえる約束だ。
「お金の問題じゃなく、まず人命でしょ? 早く犯人を探す事に関しては努力しますが」
「グズグズするなよ。モバによるとメンバー全員のスマホに、オトハ達を殺した奴と同じ痕跡を見つけたそうだぞ」
「何ですって?」
「恐らく向こうは既にモバやお前さんの存在に気付いている。油断するな」
「わかりました」
ソコンさんは傍受されるとの事で直ぐに電話を切った。
焦る気持ちは有るが、相手も直ぐに次の犯行に移らないという事は、俺達を警戒してるのだろう。
少なくとも時間が来たら自動的に行なわれる呪いでは無いようだ。
「どうしようかな……この後、誰に探りを入れよう……」
スマホの時計を確認すると一時半を回っていた。腹の虫が鳴り、昼食を取らずにこのビルに来た事を思い出す。
マネージャーさんからは、ビル内の食堂に仕出し弁当が残っているので、自由に召し上がってくれと言われていた。今から行って遠慮なくいただく事にしよう。
「さて、腹も減ったし、そろそろ死ぬか。この後の事は死んでから考えよう」
俺はそのまま同じ2階にある食堂に向かった。
昼食時間を過ぎていたので、食堂内は運良く誰も居なかった。
これなら遣りやすい。
戸棚の方に行き、引き出しから鋭利な果物ナイフを取り出す。
そしてスマホをテーブルに置くと、撮影を開始した。
「じゃあ、今から死にまーす」
そう言って手にしたナイフを左手首の頸動脈にあてる。後は迷わず切りつけて――。
「フギャアアアアアァァァ!」
「うわああああああぁぁぁ!」
俺は慌てて持っていたナイフを捨てた。
床に落ちたナイフが、乾いた金属音を食堂内に響かせる。
俺、今何をしようとしてたんだ?
まさか死のうとしたのか?
いやいやいやいや、俺、弁当食べにココに来た筈だぞ。
何時から考えと行動が変わったんだ?
こんな風にオトハちゃん達も自殺したのかよ?
スマホを見ると撮影画面にモバが二本の尻尾を振りながらキョトンとした顔で映っていた。モバが助けてくれなければ俺は正気に戻れず、確実に死んでいただろう。危なかった。まだ震えが治まらない。
「ソコンさん……今度の相手、すげーヤバい
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