第4話 二人目
とりあえず俺達は、過去のスーサイドパクトに関する資料から、今回の清河音葉の自殺に関連する事項がないかを手分けして調べる事にした。
もしかしたら澱山社長やエイトスロープのメンバーに関する人物が居るかも知れないからだ。
「チッ。パソコン使って書いてやがる。紙の資料は手で書けよ」
「逮捕状も電子化される時代よ。今時パソコン使わずに資料造る奴はアンタだけよ。オッケぇ?」
三等分した資料を俺とソコンさんは、それぞれ自分の机に広げて調べはじめる。トユキさんは来客用応接セットの上で何やらタブレットに記録しながら調べはじめた。
未遂の物も多いが、スーサイドパクトの事例は、けっこう未成年の若い子が多い事に驚いた。
まさか犯人のデジタルスペクターも、未成年の幽霊なんだろうか?
「今回の亡霊、いったいどんな人物像なんでしょうか? コアなファンの逆恨みなんでしょうか? それともライバル関係者の妬みとか?」
「案外犯人はメンバーの中に居るかもぉー。女が複数系で集まったら表向きはキャピキャピ仲良さそうに見えてても、裏はドロドロよん」
「トユキさん、夢を壊さないで下さいよ。だいたいメンバーはまだ生きてますから」
「生きてる人間がデジタルスペクターを操って自殺に追い込んでるのかもよん」
「えっ? 操るなんて、そんな事できるんですか?」
「隣にしとるやつ
確かに。すっかり忘れてました。
「俺は操ってねえぞ。仕事を頼んでいるだけだ。モバはあくまで対等の
「はいはい。まあ、もうアンタの飼い猫じゃあ無いもんねー」
しかし、犯人の狙いは何なんだろう?
自殺に見せかけて呪い殺したいんだろうが、だったらなぜ澱山社長に犯行予告みたいなメールを出したんだ。
何か手掛かりないと、本当に雲を掴むようなもんだ。
かと言って社長が本当に真っ黒な人物なら、今迄の悪行を洗い浚い喋るわけないだろうし、弱ったなあ。
「おい、ロク。お前さん、このグループに詳しいんだろ。グループの経歴と、メンバーそれぞれの特徴を教えてくれ」
「あっ、はい。じゃあ俺の知ってる範囲で」
俺はソコンさんに言われ、エイトスロープの簡単な説明を行なった。
エイトスロープは四年前に活動を開始したグループで、主に動画サイトの『歌ってみた』や『踊ってみた』で有名だった若い女の子を社長がスカウトして結成したみたいだ。
初リリース曲がSNSでバズり、いきなり全国的な人気と知名度を得る。
現在のメンバーの数は結成当初と変わらず八人だが、実は既に三人入れ替わっている。
入れ替わって辞めたメンバーは業界を引退しており、その後一切情報は入って来ない。噂では三人とも既に結婚していて、子供も居るのではないかという話だ。
亡くなった清河音葉を除く、現在のメンバーを人気順に紹介する
初期メンバーで正統派アイドルって感じの子だ。彼女は清河音葉が自殺した時、一緒に現場に居た。イメージカラーは青。
初期メンバーでストリート系って感じの子だ。彼女も清河音葉の自殺現場に同席していた。イメージカラーはオレンジ。
追加メンバーで双子アイドルを売りにしている姉の方だ。まだ未成年で活動も抑え気味である。イメージカラーは黄色。
追加メンバーで高殿金の双子の妹。姉同様に未成年なので活動は抑え気味。イメージカラーは白。
初期メンバーで清純派アイドルって感じの子だ。実は俺の一番の推しの子。俺は彼女がまだ歌い手だった頃からのファンで、学生時代にツーショット写メしてもらった事もある。イメージカラーは赤。
追加メンバーでクール系って感じの子だ。彼女も清河音葉が自殺した現場に居た。イメージカラーは紫。
初期メンバーでミステリアス系って感じの子。正直地味で目立たなく、アイドル向きではない気がする。イメージカラーは緑。
因みに一番人気だった清河音葉は初期メンバーでギャル系って感じの子。イメージカラーはピンクだった。
「俺の情報はこんなとこです。あと、みんな歌が上手いです」
「イメージカラーなんかどうでもいいぞ」
「いや、これが大切なんですよ。推しがいるならライブで応援する時、ペンライトの色をその子にちゃんと合わせないと駄目なんです。向こうも『私のファンだ』って気づいてくれて、お互いテンション上りますからね」
「くだらねえ。それより辞めた三人が気に成るな。はっきりした理由は分からないのか?」
「はい。三人とも引退宣言もなく突然辞めましたから。ファンからは他のメンバーとの不仲説が囁かれてますが、推測の域を出ないです」
「とりあえず、その三人の名前も教えてくれ。死んでたらコンタクトが取れるかも知れん」
何か変な言い回し。
「ねえ、ソコン」
「何だ?」
「今回の件さあ、既に一人亡くなってるじゃない。かなりヤバい怨霊の気がすんだけど」
「だから何だ?」
「コヨリも呼んどいた方が良いんじゃない?」
「気が進まねえなあ。それは最終手段だろ」
「アンタ、まだリンコちゃんの事で根に持ってんの?」
「その名前を出すなっ!」
急にソコンさんが凄い形相で怒鳴った。
一体何だ?
トユキさんは何の逆鱗に触れたんだ?
ソコンさんはその後、しかめっ面のまま黙って資料を眺めだした。
トユキさんは両手を広げるジェスチャーをしながら呆れてる様子だ。
何かすげー険悪な空気に成ってる。
まずいな。何でソコンさんが怒ったか聞きたいけど、聞けるムードじゃないや。
仕方ないので俺も資料を見直す。
そしてパソコンでエイトスロープの最近の活動内容を調べた。
学生の頃はイベントライブに行ったり、スパチャでメッセージを送ったりしていたが、就職してからは偶に動画を見るだけに成ってしまった。それでも古参のファンとしてエイトスロープには愛着がある。
何とかこれ以上被害者が出ないよう、一刻も早く解決してあげたい気持ちでいっぱいだ。
「あらら。本署から連絡だ。なんだろ?」
トユキさんは、そう言って突然立ち上がり、そのまま「失礼」と言って一旦外に出た。そして数分後、とても嫌そうな顔をして戻って来る。聞きたくなかった悲報と共に……。
「戸月蘭が入水自殺して亡くなったわ。清河音葉の時と同じく、スマホで自撮りライブをしながら橋の上から飛び込んだみたい」
「えっ? そ、そんな……」
俺の心は再び強い喪失感に襲われるた。
得体の知れない何かが、俺の憧れだった存在を恐怖で毟りとって行く……。
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