第2話 エージェンシー
「ソコンさん、ニュース見ました? 清河音葉が自殺したみたいですよ」
「誰だそれ?」
「エイトスロープの清河音葉ですよ。ご当地アイドルだから知ってるでしょ?」
「知らん」
「はあ? まさか、ユーチューブやニコニコ見てないんですか?」
「見ない」
動画サイトを見ない人が、インターネット専門の霊媒師を名乗れる不思議。
まあ、俺の上司と言うか、先生である
色んな意味で世間の常識とは、ほど遠い位置の方だ。
「しっかし、最近芸能人の自殺が多過ぎると思いません? やっぱ、コロナでライブとかが出来なかったのが影響してるんですかね? ファンが減っちゃったとか」
「知らん」
「ちょっとは会話のキャッチボールしましょうよ! そんな時代遅れのパズルで遊んでばかりいないでぇー」
「うるせぇな。興味のない話でキャッチボールができるわけないだろが」
俺、
「ソコンさんが脅かすから、もっとネット霊障って多いと思ってましたよ」
「普通の霊障だって、そんなに頻繁に起こらないだろが」
「でも、幽霊も悪さをする奴ばかりじゃなくて安心しましたよ」
「この業界あまくみるなよ。そのうち痛い目に遭うぞ」
「またまた、脅かさないで下さいよ」
ソコンさんの机の横には、俺用の小さな机と折りたたみ椅子を用意してもらった。
普段俺はそこで書類整理などの事務の仕事をしている。一応表向きはネット関連相談事務所なので帳簿なんかも、きっちり付けているのである。
ソコンさんはパソコン音痴だが、モバがどういったタイプのマルウェアかを調べてくれるので、霊障でなかった依頼主さんでもアドバイスなどのアフターケアをちゃんとしてあげている。この辺の知識は、サイバー警官であるトユキさんの後ろ盾が有るのかも知れない。
「今日の依頼は何件だ?」
ソコンさんに言われてSNSのメールを確認した。
本日はまだ一件だけだ。
その事を伝えると、ソコンさんは依頼主にすぐに来るよう返事を送れと言われた。
言われた通り送信すると、三十分後に来るとの事。
この後、何時も通りに依頼主の対応は俺がする。
ソコンさんは奥の部屋で待機し、モニターでその様子を監視する。
俺は対応中もソコンさんの指示を仰ぐ為、片耳だけワイヤレスイヤホンを付けた。
エントランスの掲示板には、この事務所の部屋番号を知らせる[四〇四]の紙も既に貼りつけてある。
後は来客を待つばかりだ。
三十分後、時間通りに到着の知らせが入った。
「ご到着のようです」
「じゃあ、任せたぞ」
ソコンさんに肩を揉まれた俺は、頑張るモードにスイッチが入る。
インターホンが鳴り、いよいよ今回の仕事の開始だ。
「はじめまして。ヨドヤマエージェンシー代表取締役の
「はじめまして。斎波素近相談事務所の穴戸です。どうぞ、そちらにお掛け下さい」
半分白く染まった髪をオールバックにした五十代ぐらいの男性だった。身に着けているスーツや腕時計が高級品だという事は、ブランドに疎い俺でも一目でわかる。
「私の会社名はご存知ですかな?」
「はい。よく耳にいたします」
ヨドヤマエージェンシーは、主に関西地区に拠点を置く地下アイドルやユーチューバー達が所属する比較的最近できたタレント事務所である。
仕事の斡旋や企画が目新しく、今もっとも注目が集まってるベンチャー企業だ。
「昨日、うちのタレントが亡くなった事もご存知ですか?」
「昨日? あ、そうか。エイトスロープはヨドヤマエージェンシーに所属してましたね。この度は――」
「実は今回の依頼は、そのエイトスロープに関する事なんです」
「えっ?」
どういう事だ?
まさか清河音葉の幽霊が、この社長のパソコンに取り憑いたのか?
「実は昨日、お寺にお祓いに行ったのですが、『あなたに霊は憑いてない』と言われました。私が『そんな筈はない』と言うと、『ならば拙僧では分かり知れぬ霊か。然らば』との事で、こちらをご紹介いただいたしだいです」
「なるほど。では社長にデジタルスペクターが取り憑いたと」
「取り憑かれたと言うか……正直よく分からないんですよ」
「それは、いったいどう言った内容なんです?」
「四日ほど前に成りますかね。変なメールが私の携帯に届きました」
「変なメール?」
「はい。送信者も不明だったので悪戯かスパムだと思い、すぐに消したのでもう残ってないのですが、内容はこんな感じでした。[これからエイトスロープのメンバーが次々と自殺する。これは彼女達と交わした呪いのスーサイドパクトである]と……」
「呪いの……
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