第12話 自分も

「マフィアのパソコンに侵入? いや、だってソコンさん、さっきエクソシストやセキュリティの関係で、マフィアにはデジタルスペクターでも迂闊に近づけないって……」

「例外も居るって言ったぜ。その例外がモバだ。あいつはどんなセキュリティでも全く問題ない。複雑なIDやパスワードも関係なく突破できる。鼻が効くから強い除霊師が近づいたら直ぐに逃げる事も可能だ」


 モバ、すげー。そこまで万能だったのか。

 よく考えたら俺の銀行口座のデーターまで、簡単に盗み出してたもんな。


「ついでにそのマフィアグループの麻薬取り引きの情報もリークしといた。恐らく身内の裏切りだと思って内部抗争が起こるかも知れないが、まあ、仕方ないだろ。バレリアも何かオマケを付けないと不服だろうからな」


 そうか。それで納得してバレリアさんは帰ったんだ。良かった。本当に良かった。


「これで終わったんですかね?」

「たぶんな」

「何か酷い目に遭ったけど、バレリアさんって悪事を許さない正義感の強い人だったんですね。きっとネット掲示板で、あの人なりに闘ってたんだ」

「悪いが俺はそうは思わないぜ」

「なぜですか?」

「だってそうだろ。マスメディアでもないのに、匿名だからバレないと思って調子こいてたんだろうが。正義気取って、憂さ晴らしの対象にマフィアを選んで悪口書いてただけじゃないのか? 果たしてそれが正義か? 本当にマフィアの悪事を許せないなら、努力して政治家か警察に成れば良かったんだよ」

「……確かにそうです。でも、俺も同じなんです」

「ん?」

「俺、『人の役に立ちたい』って子供の頃から思ってました。これと言って取り柄もないけど、それでも誰かに認められ、誰かに褒められたいという承認欲求に、ずっと駆られてたのかも知れません。医者や警察には向いて無いので今の仕事に就きました。協調性も考えず、世の為、人の為と思って働いていました。今考えると、例え誰かに褒められなくても、人の為に頑張ってる自分を自分で褒めたかっただけなのかも知れません」

「……そうか。だが、バレリアがお前さんと同じタイプだったとは限らんぞ」

「かも知れません。でも、バレリアさんもきっと、誰かに認められたくて世の為、人の為に、自分が出来る事で頑張ってたんだと思います。世界からみたら個人なんて小さな点です。そんな点が世界を変えられるかも知れないし、良くする事ができるかも知れない。自分を認め、褒めてくれる人がいるかも知れないと思って、皆インターネットをしてるのではないんでしょうか?」

「そんな奴等ばかりじゃない。少なくとも俺は、インターネットなんて情報取得をする為の存在としか思っていない」

「……そうですか。いや、そうですね。本来はそういう物ですね」

「それより、お前さん。これからどうすんだ?」

「どうするって?」

「一応俺の仕事は、ここまでだ。悪いが会社には俺とモバの存在は秘密だ。犯人が電子の幽霊だと他人に言っても信じちゃ貰えないぞ」

「分かっています。けど、これでもう高橋達や得意先が嫌な思いをする事はないですし、バレリアさんも気が晴れて天国に行けるなら万々歳じゃないですか。俺は若いですから、やり直しがききます。退職届出して明日から再就職先を探しますよ」

「随分お人好しだな」

「考えてみたらちゃんと課長達とコミニュケーションをとって無かった自分が悪いんです。『人の役に立ちたい』と言いながら、身近な人との信頼関係を結んでなかった自己責任ですよ。今度働く場所では、職場の人とも信頼関係を築いて、今度こそしっかり『人の役に立つ仕事』をしたいと思います」

「ここで働かないか?」

「えっ?」


 意外な質問が飛んで来た。

 俺にここで働けって?

 いやいやいや、今見てたでしょ?

 俺のお化けに対する見事なヘタレっぷり。

 誂ってるのかな?


「すいません。それは俺にソコンさんのお手伝いをしろって事ですか?」

「そうだ。電網霊媒師としてな」

「ちょ、ちょっと待って下さい。有り難いですが、俺、幽霊もパソコンも苦手です。そんな俺がアシスタントだとしても、電網霊媒師は……」

「そうだな。最初は俺の代わりにお前さんが依頼主の相談を聞く係だ。俺は出来るだけ正体を隠したいんだ。狙われるからな。初見の依頼主が来た時は、お前さんが対応し、俺は隣の部屋からその様子をモニターで確認する。前からそんな形が取りたくて人材を探してたんだ」


 なんだ、俺が有能そうだからスカウトしたのじゃなく、ソコンさんの盾に成る捨て駒係かよ。まあ、当然だけど。


「それにだ」


 ソコンさんは意味有りげな笑みを浮かべた。今迄見せなかった表情だ。


「ネット霊障で助けを求める人間は、年々増えている。だが、それに対して助けられる人の数はたかがしれているんだ。お前さんが経験した事が、今日もこれから何処かで起こるかも知れない。救いを求めても打開策が無く、途方に暮れる人達が溢れていくんだ。そんな現状、お前さんならどうしたい?」


 ソコンさんに照れ隠しの素振りが見える。

 この人、強面で口は悪いが、中身は優しい人なんだ。

 何か上手く遣り込められた感ありますが、そんな事言われたら応えるしかないじゃないですか。

 俺は迷うことなく返答した。


「詳しい仕事内容の説明と面接はいつですか?」

「明日だ。履歴書持って来い。ちゃんと自筆で紙に書いたやつだぞ。パソコン使ったら電子幽霊やつらに書き換えられるかも知れねえからな」

「分かりました。では明日、又こちらに参ります。その時は宜しくお願い致します!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る