第2話 思案と衝突

……とはいえ、どこから攻めていこうか。いや、未姫に関して言えば少なくとも私のことをよく思っているだろうし、正直もうどうにでもなるというか、もうさっさと食べちゃって早く未姫とイチャコラしたいという気持ちが強いというか。実質合意もらったし。


「七志先輩! お茶をご用意しました!」

「……あぁ、ありがとう」

「七志先輩! わ、わたし先輩にお弁当作ってきたんです……食べてくれませんか!?」

「もちろんいただくよ……お礼は後で個人的に……ね」


弁当を差し入れしてくれた優しい子に礼を言いつつ、顔を近づけ片目を閉じ、人差し指を口元に寄せて囁けば、部屋に集まっていた女の子たちが歓声をあげる。ふふ……ここが楽園か。彼女にはお礼とは言ったがほんの摘み食いである。さすがに初めての獲物は未姫にしたい。

なお、七志明日乃は通名だ。本名のアスノティフィル・ナナクーシャからとった。


「七志明日乃!」


そうして私がいつものように少女を侍らせていたその時、ここ──生徒会室の扉が勢いよく開かれ、赤髪の少女が刺々しい声色で私の名を呼んだ。


「おや、燐華」

「毎日毎日神聖な生徒会室で部外者を集めてんじゃないわよ! あと名前で呼ぶな! 」

「……藤村書記。そうは言ってもね、知っているだろう? 業務は片付いているんだ。ならこの部屋をどう扱おうが自由じゃないか」


激昂する赤髪の少女、藤村燐華の言う通りでこの生徒会室は私が私物化しているが、ちゃんと義務は果たしているのだ。生徒会の業務は楽なものではないが、あくまでそれは人間基準。これでも向こう側で首席だった私には自動化ですら容易い。そういうわけなので、彼女を含めた生徒会メンバーにはわざわざ来る必要はないと言ってあるのだが。


「なっ……! いくら生徒会長だからって、伝統ある聖美原の生徒会室を私物化するなんて許されるはずがない!」

「燐華、あまり声を荒げないでくれ、彼女達が怖がっているだろう? ……ともかく、私が良しとしているのだから、それが全てなのさ」

「減らず口を……!」

「すみれも……あの氷堂副会長も、私に文句は言いにこない。なのに君は毎日……ふふ、そんなに私に逢いたかったのかい? まぁ、君が私と二人きりで甘い時間を過ごしてくれるというのなら人避けをするのもやぶさかでは──」

「……っざっけんな……!」


おや、と再び燐華を見据えれば、彼女は顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。余程我慢ならなかったのだろう、その瞳は怒りで満ちていた。


「ふざけんな! 折角あの氷堂が辞退して……アンタさえいなければ、私がこの聖美原の生徒会長だったのに……!七志明日乃ッ! 絶対に……絶対に許さないから……っ!」


そう言い切ると、燐華は駆けて部屋から出て行ってしまった。もちろん、廊下を走ることは拘束違反なわけで、相当我慢ならなかったのだろう。随分と嫌われてしまったものだ。


「ふふ……」

「……か、会長?」

「いや、どうしてこうも──」


人間から向けられる感情は、どれもこれも甘美なんだろうな?


「そ、それにしても……藤村さん、あんな顔するんだ……」

「む?」


ぽつりと、一人の少女がそう漏らすと、次々に同意の声が上がる。


「あ、わかる! 中学の頃はもっとこう真面目な人だったよね?」

「印象変わったよなぁ……」

「今でもあんなに大きな声出すの、会長の前だけだよね……」


へぇ……?


「……いいね。みんな、藤村くんの話、もっと聞きたいかな」

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