ヒトメスさぁ……警戒心薄すぎでしょ……かわいいね♡
鐘楼
第1話 些細な一言
「昨日未明の無認可のサキュバスによる強制血契事件で被疑者送還……被害者の男性は魅了魔法に加えて思考低下魔法の痕跡あり……かぁ。男の子は大変だね〜」
私の目の前で、スマホのニュースを眺めている少女。幼さが残る顔立ちもさることながら、たかがニュースでその表情をコロコロと変える様が可愛らしい、そんな女子高生だ。
「……そうだね。最近の異種族の行動は目に余るよ」
そのサキュバスも、愚かなことをしたものだ。ニュースではあちら側へ送還となっているらしいが、それだけでは済まない。その不届者はこちら側の法律を犯したと同時に、あちら側の協定を破ったのだ。
その協定とは即ち、『同意なく人間の男性にわいせつな行為をした者、又は肉体及び精神に干渉する魔法を使用した者は厳罰に処する。本協定は全ての種族に適用されるものとする。』といったもので、文面上は厳罰とあるものの実態はあちら側の異種族達からの嫉妬と憎悪が籠ったリンチだ。つまりそのサキュバスに未来はない。
何故ここまであちらの事情に詳しいかと言えば、それは私自身も認可を受けてこちら側で生活する異種族だからであり、その異種族の私が何故不人気潜伏先の女子校でスクールライフを送っているのかと言えば、それはもう──
「それに比べて、女の子は気楽だよね〜、狙われることもないし。ね、明日乃ちゃん」
「ブッ……そっソウダナ未姫」
一切の他意なくそう言って笑う未姫。彼女にとっては他愛のない雑談でしかなく、だからこそ滲んだ私に対する信頼が映える笑顔。
……っかわいいなぁ〜〜こっちの正体も真意も疑わないで無防備晒しちゃってさぁ……女の子だから安心って本気で信じちゃってるんだかわいいね、そんなんだからわるーい上位存在に目をつけられちゃうんだよ? でもそんな愚かなところも最高だよちゃんと責任取るから千年の将来を約束しようね?
……と、そんな叫びを上げ続ける本能的な思考は一度置いておく。ともかく、未姫をはじめとするこの学校の学友は生徒会長でもあるこの私に全幅の信頼を寄せており、その状況は私にはもう都合が良すぎて楽園か? となるほどだが、何故そんな夢のような環境である女子校が異種族人気低いのかと言えば、そりゃまぁ男子がいないからなのだが。
異種族達──我々“向こう”の存在に、男性は存在しない。だからなのか、我々は本能的に人間の男を求めるが……私はその次元を脱した。ヒトメスの良さを理解ってしまったのだ。
ということで、この環境は他の異種族達にはハズレでも、私にとっては超優良1stロイヤルクラスなわけだが、良い点はそこだけでは終わらない。
まず一つ、監視が緩い。通常、私のような認可されてこちらで生活する異種族には制限と監視がつく。特に学校という場においては、協定成立前に愚かなる先人達が十代男子を乱獲したこともあり、ガチガチに厳しい。……が、ここは女子校、それも全寮制。私の外面もあり、道を踏み外すリスクは殆どないと判断された為、監視がほぼないのだ。やりたい放題である。
極め付けに、例の協定を思い出して見てほしい。『同意なく人間の男性にわいせつな行為をした者、又は肉体及び精神に干渉する魔法を使用した者は厳罰に処する。本協定は全ての種族に適用されるものとする。』……『同意なく人間の男性に』……『人間の男性に』。
つまり、ルール上女性相手ならばイリーガルな魔法を使って手籠にし放題なのである!
……まぁ、私は人の心も愛したいタイプなので、無理矢理心を動かす類の魔法を使う気はないが……身体に悪戯をしても合法なのは非常に有難いところだ。
「……ん〜でもー」
「……うん?」
少し思考が白熱していたせいで、私としたことが未姫の言葉に反応が遅れてしまった。そして次の瞬間、私は野望の進行を速めることになる。
「異種族さんに興味あるから、接点ないのはちょっと残念かも」
「……へぇ」
嗚呼、未姫。君という娘はほんっとうに……もう、今のは同意だよね。同意に違いない。今からイエスって言わせてあげなきゃ。
仕方がない。予定より早いけど、野望の始まりだ。
このアスノティフィルが、聖美原女学園の全てを手に入れる時だ。
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