第12章 好かれるために

ひと足早い春の匂いがした。

 幸せだった。ハグした感触が、忘れられなかった。何をするにもAのことを考えるようになっていた。

 私はAに恋をしてしまったのだ。当時中学三年のまだあどけなさが残る彼女に。

 それからはほぼ毎日電話していた。彼女のラインの着信音も、すぐにプレイリストに入れた。好きな髪型も服装も真似するようになっていた。

 私は気づけばAの好みの人間に近づいていた。私らしさを捨て、Aが好きになるような人間になるために。

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