第3章 進路相談

進路がある程度決まってからは雑談をするようになった。私がぼーっとしていると、Aは「せんせ、せんせ、」と顔を覗き込みながら何度も私を呼ぶのだった。話してくうちに私は彼女の魅力に取り込まれていった。

 私は救いようのない人間だ。人に物を教える立場の人間が中学生に、生徒としてではなく、なにか別の感情を持ってしまっていた。俯瞰すると愚かで滑稽だった。

 ある時Aに進路を相談されたことがあった。

 Aはある高校の普通科に入ろうとしていたが正直後期一本で受かるほど優秀な生徒ではないことはわかっていた。そこで私は普通科よりレベルの高いコースを推薦した。学校の担任とAの親は当然反対した。

 当たり前だ、普通科すら厳しい成績なのにもっと上のレベルを目指すのはちゃんちゃらおかしい話だ。だが、Aは普通科ではなく、上のレベルの受験をすると意志を固めていた。

 学校の先生もその硬い意思に心を打たれたのだろう、Aの志望するコースを応援するようになっていた。

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