Layer.2

 超構造建築体ハイパーストラクチャー。自動都市構築システムの暴走により、異常な規模で増築された建築物のことである。東京はその被害規模が殊に大きく、現在も増築は続いている。気安く超構造建築体へ侵入することは、永遠にゴールへたどり着けない迷路へ繰り出すことに等しい。

 超構造建築体の一種である公園。そのベンチに、令斗は座り込んでいた。

 彼の視界には、所属先である警視庁捜査一課の会議のライブ中継が映っている。豪勢な会議室に捜査員たちが詰め込まれ、正面に向かい合う課長の話を聞いていた。

 令斗は、超構造建築体の中で活動する特務捜査員である。生きて帰還できる確証はないため、特務捜査員に対しては、会議内容は量子暗号通信でリアルタイム中継される。超構造建築体内で、時間を合わせてリモート参加するのだ。

〈令斗、君には第654階層にて発生した、児童惨殺事件についての調査を頼みたい〉

 課長からの通達。

「了解」

〈今すぐだ。君は退席してよし〉

「......」

〈失礼します、くらい言えんのか!〉

 突然がなった副課長を無視し、通信を切る。視界がもとに戻り、視線を合わせたものの詳細を文字で表示し始める。

「654階層......」

 公園の中心部に、文字通り天まで届く階段がある。この階段は各階層を結ぶもので、超構造建築体を行き来するのに使える。

 先日、殺人犯を処理した階層は、現在より10階層ほど下だった。各階層には、都市とでも言うべき空間が広がっている。即ち、東京という一つの都市の中に、無数の都市が無限に存在する。


 上がった階段を数えるのは、10階層分を過ぎたあたりからやめていた。

 真夜中だった第653階層を過ぎ、第654階層に到達すると、突然光が飛び込んできた。

「まぶっ......!!」

 思わず手で遮る。第654階層は、それまでと異なり真っ昼間だった。

 階層を超えると異なる時間へ移動する場合がある、と聞いた事があるが、それを体験するのは初めてだった。事実、第653階層に戻ると、暗い。

 第654階層に出る。一課の常駐オペレータに通信を繋ぐ。

「令斗だ。課長を」

〈お繋ぎします〉

〈......令斗、ついたのか〉

「ああ」

〈事件のデータを転送する。ブレーン・ファイアウォールを一時解除しろ〉

「した」

〈よし〉

 量子暗号通信を用い、電脳部位に転送された事件のデータを取り込む。この間、電脳隔壁ブレーン・ファイアウォールが効かないため、伝送攻撃に注意が必要だ。

「受け取った」

〈今回に犯人も、敵の一味だ。かなり強力な武装を持っている。気をつけろ〉

「了解」

 通話終了。データによると、敵は近接攻撃を重視した生体改造を行っている。左腕を鋭利かつ大型の刃物に換装しているようだ。

 人体をベースにしているが、明らかに四肢のバランスがおかしい。右腕は武器に、左腕は異様に筋肉が発達し、下半身からは珪素質の棘が無数に生えている。接近されれば、一溜まりもないだろう。

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SACRIFICE 立花零 @ray_seraph

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