第5話

 翌日の朝、いつもなら先に学校に来ていて、隣の席から「おはよう」と声をかけてくるはずの人物はいなかった。寝坊でもしたのだろうと、特に気にも留めずにいたがとうとうホームルームの時間になってもその人は来なかった。


「えぇ〜、小林なんだが、家庭の事情でしばらく学校を休むことになった。次に学校に登校してくるのは夏休み後になるだろうとのことだ。」


 クラスにどよめきが走る。それもそうだろう。最近の小林さんは、確かに俺と話そうとひっついてくることも多かったが、クラスでたくさんの人と楽しそうに話していた。他のクラスメイトにとっても、小林さんにとってもお互い、ようやく馴染んできた頃合いだろう。それなのに、本人から何も話されないまましばらく会えなくなるのだから。

 しかし、家庭の事情と言われれば、納得せざるを得ない。少しするとざわめきは静寂へと戻った。その様子を見ながら、俺はこっそりとスマホを取り出して未だ自分からは一通しか返していないトーク画面を開く。

小林さんから送られたメールは、一昨日の夜にもらったものが最後だった。


 



 小林さんは学校に来ていないというのに、俺はすっかり馴染んでしまった階段の下で今日も一人で弁当箱を開いていた。いつものように一人で、黙って食事できて落ち着く.....はずなのに、どうしても心がざわついて仕方がなかった。午前の授業も、まともに頭に入ってきていない。気づけば頭のどこかで小林さんのことを考えていて、トーク画面を睨みつけていた。


「こんなこと、今までにはなかったのにな.....。」


ひとりごちて、しばらく思考に耽る。






「...............よし。」


 俺は走り出した。教室まで戻って鞄をひったくるように取り、ただひたすらに走った。

靴を履き替え一歩外に出ると、ギラギラと照りつける太陽がジリジリと肌を焦がすようだったが、そんなことにはお構いなしに、俺は目的地に向かって脇目も振らずに走り続けた。


 目的地、小林さんと出会ったあの病院に着く頃には息も絶え絶えで、身体中が汗でびっしょりと濡れていた。クーラーの程よく効いた涼しい病院内に入り、受付の看護師さんに病室を確認する。その間さえもどかしく、気は急くばかりだった。

 病院内を早足で移動して、看護師さんに教えてもらった病室にやっとたどり着いた時、普段の運動不足のせいか俺はもう満身創痍だった。そのため頭は使い物にはならず、何も考えることなく勢いだけで扉を開いてしまった。小林さんはベッドの上で半身を起こし、少しびっくりしたような顔でこちらを見つめていた。


「よかっ..........、」




その直後、俺の意識は暗転した。

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