第4話
昼休みになった。俺は国語の授業中に隣から投げられた、小さく折り畳まれた紙をもう一度開く。
『昼休み、屋上に来てね!絶対!!!』
一体、何の用があるというのか。整った字で書かれた文面を見て、俺はもう何度目かもわからない溜息をついた。
「あっ!来た来たー!こっちこっち!!」
「何ですか??」
「いやー、今日はいい天気だねぇ。」
「用がないなら、じゃあ.........、」
「あー!もう待って!!話があるんだってー!!」
「何ですか??」
「また『何ですか?』!?この前はもうちょっと話してくれたじゃん!!」
「あの時は..........」
あの時は..........そう。おかしかった。普段あんなに他人と話すことなんてしないのに。あれほどまで話したのは、一体いつ以来だったろうか。
「小林さんこそ、あの時と印象が違うと思う。」
「そーお?まぁ、あの時は..........」
小林さんそう言って、人差し指で頬を掻きながら少し視線を彷徨わせた。
「おほん。それは置いといて.....、本題ね。私が病院に入院しがちだってこと、誰にも言わないで。」
置いとくんかい!というよくあるツッコミが思い浮かんだが、それまで見ていたへにゃりとした笑顔と大いにギャップのある、そのときの小林さんの真剣な表情に吸い込まれそうになり、そんなことはすぐにどこかへ消え去ってしまった。
「別に言わないけど。」
「まぁ、そうだよね。
「....................、それじゃあ。」
「うん!じゃーねーー!」
病院のことを隠すつもりなんだろうか。俺は首を捻りながら階段を下っていった。
────二週間後。
俺は疲れ果てていた。屋上で話した後から、やけに小林さんが俺に話しかけてくるようになったからだ。最初の頃はまだ良かったが、避けても避けても付いてくるのが二週間も続き、とうとう七月になってしまうと、当然鬱陶しくもなってくる。
昼休みの今も、小林さんに見つからないよう階段の下にある薄暗く狭い空間で一人、昼食をとっている。
小林さんはとても不思議な人だ。口数も少なく表情がない俺と、懲りもせず話をしようと思うだなんて。最後の友人だった人に、いつか言われたことがある。
『桑名は何も話さないし、笑いも怒りもしねーから何考えてるのかわからねーんだよ。正直気持ち悪ぃ。』
と。その時、自分のことながら同意しかできなかった。
それから、あらゆる対人関係を俺は嫌ってきた。ただ一人、じいちゃんを除いて。
じいちゃんも大概不思議な人だったけれど、小林さんはそのじいちゃんと優劣のつかないくらい変わっている人なのだろう。だけど.....。
やっぱり俺は一人が似合っている。こうして一人で、誰とも話さず生きていく方が、性に合っている。相手を不快にすることもないし、それが一番良い。
「ごちそうさまでした。」
一人の時間を邪魔されなかったことにほっとしながら、俺は空になった弁当箱を持って、教室に帰った。
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