第6話

 目が覚めると、見慣れない真っ白な景色が目に入ってきた。何気なく横を見てみると、隣のベッドで小林さんが読書灯を灯し本を読んでいる姿が目に入ってきた。


「あれ.....?俺..........、」

「あ、起きたー?もう、びっくりしちゃったー!いきなり桑名が来たと思ったらその場で倒れちゃうんだもん。..........体調はどう??」

「...............、そっちこそ。」

「あははー。桑名、来てくれてありがとーね。」

「.........................。」

「あれ?もしかして、照れてるのー?」


 このこのぉ〜とウザ絡みしてくる小林さんを前にして、どうして俺はあんなに焦ってたんだろうかと、少し自分を馬鹿馬鹿しく思った。全く、呆れたものだ。それに、こんなに元気ならメールの一つでもしてくれていたら良かったのに。

とそこまで考えて、はたと気づく。本当に、いつの間にこんなにも小林さんのことを考えるようになったのだろう。最近、いや、小林さんと出会ったあの日から俺の日常は間違いなく変わった。


「ぇ......、ねぇ..........ねぇってばっ!!!」

「っ!ん??」

「もう!聞いてよー。どうして何も聞かないの?」

「何を?」

「何を?って.....病気?のこととか??」

「別に。俺が知る必要ないだろ?」


なんとなく、小林さんから顔を逸らした。気にならない、と言えばそれは嘘になる。だけど、本人が言いたくないかもしれないことを無理に聞くのは野暮な気がした。


「ふぅん。桑名って、優しいんだー」

「は?」

「自分では気づいてないんだーー!へぇ〜」

「..........小林も、変わってるよな。」

「え!?そぉ?初めて言われたー!!」

「..............................っはは。ははははははははっ」


可笑しかった。とても面白くて、すごく阿保らしくなった。素で、こんなにも笑える日が来るなんて、思ってもいなかった。一回笑い出すとキリがなくて、腹筋が痛くなってきても収まりそうになかった。小林も同じように、隣でずっと笑っていた。





  その日から、小林の見舞いに行く日々が始まった。それは夏休みに入っても同様で、お盆には病室の中で一緒に花火をみた。


『来年は、屋台も回りたいなー。それで、手に綿飴持って、河川敷で花火見ようよ!』

『あぁ、そうだな。』


少しほてって、ほんのり桜色に染まった小林の頬が上がるのを見た時、内心ドギマギしていた。それを悟られないようにするのはこの夏、小林のせいで表情が出るようになってしまってしまった俺には少し難しかった。ニマニマとした笑顔で顔を覗き込もうとしてくる小林を振り払うのが大変だった。

 宝物のようにきらきらと輝き錆びついた心を溶かすような温かい日々が続き、ようやく小林は八月下旬になった頃に退院することができた。


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