竜の娘

レア技能を求めて

第15話 レア技能会得の第一歩

 夜食の時間だから、と朱音はログアウトした。夕飯ではなく夜食だそうだ。


「時間的にはもういい時間なんだよな」


 日付が変わるか変わらないかくらいのはず。朱音がいなくなって一区切りついたし、俺も落ちようかな?

 けれどまだやりたいという気持ちもある。やり方を教えてもらったのもあるが、今日だけで5つも技能を会得できた。もっと会得したい気持ちが強い。


「どうせ明日は何もないんだし、とことんやってみるか」


 朱音がいなくなったことで、俺の周囲にモンスターが近づいてきていることが【気配感知】によってわかる。

 技能【気配感知】──自身の周囲の気配を感知する技能。感知するだけで数や種類までは判別できない。数はある程度把握できる。

 目を瞑った俺の周りを朱音が動き回り、その動きに意識を集中させることで会得できた技能だ。


「戦闘で会得できる技能もあるだろうし、試しつつやっていこう」


 技能【空間記憶】──その名の通り空間を記憶できる。目視で確認した場所しか記憶できない。

 目を瞑って動き回ることで会得した技能。この技能のおかげで、モンスターに囲まれたりしても逃げ場を見つけやすくなる。


「街に戻りつつ技能会得を目指すことにしよう」


 俺でも戦えるとはいえ、いままで戦ってきた相手の中で一番強いことは確かだ。ずっとここに籠っているといづれやられてしまう。


「たしかあっちだったよな……」


 なにせ深い森の中だ。どっちから来たかなんてわからなくなってしまう。しかしここで意外なことに気付く。


「結構覚えてる……」


 もしかしたら【空間記憶】のおかげなのかもしれないが、会得前のことも記憶対象なのか? だがそれ以外に考えられない。

 見覚えのある所を通り、時折襲ってくるモンスターと対峙しながらも、着々と街に近づいていく。

 あれほど太かった幹もだんだんと細くなり、生い茂っていた草花もそれほど邪魔に感じない程度に少なくなっていく。

 そしてあまり時間をかけずに街までたどり着いた。


「ついたー」


 1日どころか数時間ほどしか離れていなかったにもかかわらず、すごく懐かしく思える。


「えーっと、技能は……」


 何度か戦闘をしたし、それ以外でも何か会得できないか試しつつ移動した。なので多少の期待を抱きつつステータスを見る。


「収穫なし、か」


 しかしステータスに新しい技能は一つも増えていなかった。朱音の教え方がうまかったからあんなに早く会得できたのか、簡単な技能で会得方法もわかっていたからできたのか……わからないが、一人で何の情報もなく闇雲に会得しようとするのは至難だということが分かった。


 さて、街に戻ってきたはいいけど、何をしようか。朱音からポーションが売ってるって聞いたし、それを買って外に出て技能会得を目指す……のは今度にしよう。たくさんやってきたし、そんなすぐに会得できるものじゃないってさっきわかったし。


「この街を見て回ろうか。何かあるかもしれないし」


 ユートピアにはメインクエストやストーリーというのもがない。一応考察勢?とか言う人たちが世界観を解き明かそうと頑張っているって朱音が言っていたけど。

 とにかく、ユートピアには必ずしなければならないことというものがなく、逆にできることが無数にある。クエストがその最たるものらしい。


「誰でもいいから会話すること。それがレア技能会得の第一歩になる……だっけ」


 別れる前に朱音に楽しみ方を聞いたときに教えてくれたことだ。曰く、NPCの数だけクエストがあり、クエストでは技能やアイテムを獲得することができることがあると。


「でもだれに話しかけよう……」


 見渡す限り人でいっぱいだ。賑わっている通りであることも原因ではあると思うけど、それにしても数が多い。


「レアはひっそりと隠れていると踏んだ……とりあえず路地裏行ってみよう」


 勝手な推測でしかないけど、あまり見つからないからレアなのだから、人目に付きづらい建物と建物の間、路地裏に何かがある可能性が高い。

 そう予想した俺は、賑わう通りから立ち去り、薄暗い月明りのみの路地へと入っていった。

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