第16話 やっぱゲームだし、楽しまなくちゃな?
路地裏は街灯が少なく薄暗い。だからか何か良からぬことを考える輩もいるようで、そいつらに見られているような感覚がする。【気配感知】でより敏感になっていることも関係があるかもしれない。
「せめて日中にすればよかったかな……」
リアルで平和に暮らしているとなかなか味わえないこの薄気味悪さ。背筋が凍るとはこんな感じなのか。
しかし一度入ると決めてしまったし、恐怖心のほかに好奇心も同じくらいあるため、引き下がるという発想はない。
一歩一歩警戒しながら歩いていく。
「うーん……人はいるけど」
数分歩いていると、雰囲気にも慣れてくる。人の気配はかなりするけど、襲ってくるとかそういう感じじゃなさそう。
気の向くままに路地裏を歩いていく。途中で視界がはっきりとして、【夜目】という技能を手に入れた。夜の時に視界を確保しやすくなるらしい。
「あとちょっとして何もなかったら引き返そうか」
あの大通りからはかなり離れてきている。ここまで深く来て何もないなら、人がたくさんいるところで探したほうがよさそうだ。
「……うん、何もなし。帰ろっと」
「誰か!」
結局何も見つからず、諦めて戻ろうとしたその時。どこかから女性の悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「今のは!?」
【空間記憶】を頼りに女性の居場所を考える。聞こえてきた方向からして一度は通ったことがある場所のはずだ。
「多分この辺……いた!」
走りつつ状況を把握。路上に座り込んで壁に追いやられている人が一人と、大柄な人が一人。その大柄な人の両脇に人影が二つあって、三人で一人子取り囲んでいる形。
【夜目】のおかげでだんだんと状況が読めてくる。座り込んでいるのが女性で、そのほかは男。何か事情があるのかもしれないけど、一応首突っ込んでみる。だってレアイベントかもしれないし。
「どうしたんですか?」
「あん?」
女性と男たちの間に割って入る。大柄な男が睨みつけてくるが、逆にその目を睨み返す。
「なんだテメェ? 邪魔すると痛い目見るぜ?」
「ということはあなたたちのほうが襲ってる側だな?」
「違うな。襲ってるんじゃない、一緒に遊ぼうと誘っているんだ。だから失せな」
「らしいけど。本当に?」
「ち、違います……!」
違うらしい。まぁ、状況的に悪いのは男たちらしいし、どうにか助けてみますか。
「彼女は違うって言ってるけど」
「うるせぇ! 雑魚は引っ込んでればいいんだよぉ!」
「ッちょいきなり……!?」
拳を振りかぶったかと思うと、素早く殴りつけてくる大柄な男。見た目に反して意外と素早い。
男の拳をぎりぎり回避し、お返しとばかりに腹めがけて一発繰り出す。当たった。が……
「へっ、そんなへなちょこパンチじゃマッサージにすらならねぇ」
硬い。俺のパンチは確実に当たった。男は防御すら取らなかった。なのにダメージを与えられている気が一切しない。ちょっとマズったか……?
「最後の忠告だ。失せろ。今なら見逃してやる」
ちらっと後ろを見る。女性は怯えて腰が抜けてしまっているらしく、足に力が入っていない。もし俺がこの場を離れたら……どうなるかなんて想像に難くない。
所詮はゲームなのだし、俺がここからいなくなっても何も起こらないかもしれない。でもだからといってここで見捨てるのは──あまりにもかっこ悪いよな?
「上等。お前だけじゃなくそこの二人も同時に相手してやるよ」
ここまで感情が高ぶったのはいつぶりだろう。興奮すると覚醒するとか記憶がなくなるとか、そういうことはないけど、でも。
「やっぱゲームだし、楽しまなくちゃな?」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
大男の拳は素早いだけで軌道は単純だ。簡単に避けられる。あえて紙一重で躱しカウンターを打ち込む。だがやはり手ごたえがない。
「こっちもいるって!」
「忘れてないよな!」
「もちろん」
両脇から男二人が挟撃してくるが、こちらは大男よりもスピードがない。上下に分かれて攻撃してくるのは連携っぽいが、だがそれだけだ。タイミングが合っていない。
まず頭を狙った拳をかがんで躱し、胴を狙った蹴りをわざと受ける。
「入ったァ!……あ?」
思った通りそこまで痛くはない。
攻撃に使った足をそのままつかみ、時計回りに回転させる。すると男は面白いほど簡単にバランスを崩し地面に倒れこんだ。
「次はお前」
攻撃が躱されたことで無防備な体制になっている男にしゃがんだ状態から起き上がる力を利用して顎に一撃。今度は手ごたえがある。
「これで一対一だな」
「ふん。雑魚が」
今のは取り巻きに対しての言葉だろう。大男からしたら確かに雑魚なのかもしれないが、仲間にかける言葉としてはだめだ。
「忘れてないか? お前の攻撃は俺には効かない」
「そんなの、色々試してみないとわからない」
「……減らず口を」
今度はこちらから仕掛ける。狙うは足。近づいていき急にしゃがむ。そして足払い。
「転ばせようとは考えたな。だが残念だ。力が足りないわ」
上から迫る拳を見て一旦下がる。
だがどうする。こっちの攻撃は効かず、向こうの攻撃は避けられる。このままじゃジリ貧だ。何かないのか……この状況を打開できる策は……!
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