第11話 心当たりがないぞ

 街まで戻ってログアウトした俺は、さっそく朱音に連絡を取ることにした。時刻は夕方五時を少し回ったところ。この時間ならばまだゲームしている可能性もある。

 しかし意外にもすぐ既読がついた。ちょうど休憩していたのかな?


『どした~?』

『わけあってユートピア始めたんだけど、わからないことが多くて』


 俺がそう送信した瞬間。スマホがけたたましく鳴り響いた。相手の名前には朱音の文字。画面をタップして通話に出る。


「ユートピア始めたってどうゆーこと!?」

「そのまんまの意味だけど」


 耳に当てると同時に、朱音の叫び声が聞こえてきた。鼓膜生きてる……?


「やるなら私に言ってって言ったじゃん!」

「忘れてたっていうか、早くやりたかったっていうか」

「わかるけどぉ……わ・か・る・け・ど! 一声くらいかけてほしかったなぁ!?」

「ごめんて」


 そんなに大事なの……?

 言いたいことを言い終えた朱音は息を整えたのち、改めて話し始める。


「それで? わからないことって?」

「うん、調べればわかるかもしれないんだけど、ユートピアってレベルってある?」

「? ないよ?」

「スキルとかは?」

「ないけど」


 何を当たり前のことを聞いているんだ?とでも思っているかのような声で答えを返された。


「ユートピアが人気になったのって、グラが綺麗だったり自由度が高かったりって理由があるんだけど、他にもレベルがないって理由もあるんだよね。だからセンスさえあれば初期からやってる人にも勝てるし、逆にやりこめばやりこむほど唯一無二のキャラになる」

「なるほど……」

「ここら辺のことは何回かアオに熱弁したと思うんだけど……」


 まずい。心当たりがないぞ。


「まあいいや。どうせなら色々教えてあげようか?」

「お願いしたいかな」


 右も左もわからぬまま自由に楽しむのもいいと思うけど、友達とわいわいやるのも楽しい。せっかくの朱音からのお誘いだし、喜んで受けよう。


「DMでフレ送るからちょっと待ってね……」

「はいよ」


 数秒してDMにメッセージが入る。そこには朱音が使ってるアカウントの情報が記載されていた。それを本体に直接入力してフレンド申請。少し経ったら承認されて晴れて俺と朱音はフレンドになった。


「フレンドになったらどのゲームでも勝手にフレンドになってるから、ユートピア入ったら確認してみて」

「おっけー」

「じゃあユートピアで」

「後でね」


 プツッと通話が切れる。聞きたいことも聞けたし、一緒に遊ぶ約束もした。さっそくユートピアにログインするか。





 ログインした俺を出迎えたのは活気のある街。心なしかログアウトしたときよりも人通りが多い気がする。夕方だからかな?


「えーっと、フレンド……」


 ウィンドウを操作してフレンドを出すと、そこには明るく水色でルビーの文字。朱音のゲームで使う名前だ。

 名前の下には、おそらく今いる地点の名称が小さな文字で書かれている。始めたばかりの俺では朱音の場所まで行けないので、彼女がここに来るまで待つしかない。


「そんなに時間かからないよね?」


 まさか移動手段が徒歩だけということはあるまい。

 果たして、予想通りにそれほど時間がかからず朱音は姿をみせた。

 リアルとの容姿の差異は髪色と瞳の色くらい。もともと彼女は目鼻立ちがくっきりしており、変にいじるよりもなにもしないほうが魅力的に見える。


「お待たせー!」

「よっす」

「待った?」

「そんなに」

「よかったぁ。落ちたところからここまでそれなりに距離あったし、まずったなぁって思ってたんだよ」

「そんなに離れてるの?」

「ざっと東京の東から西くらい?」

「よくわかんないけど、よくこんなに早くこれたね」


 どれくらいの距離があったのかは想像が難しいけど、俺がインしてから朱音と会うまで30分も経っていない。つまり何らかの移動手段が存在しているってこと?


「大きな町には転移装置っていうのがあってね、登録しておけば転移装置から転移装置に一瞬で移動できるんだよ」

「なるほどね」


 その転移装置の数がそんなにないから恩恵はあんまりないけどね~、と朱音はつづけた。


「それじゃあ、行こっか?」

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