第10話 レベルが
「でっか……」
空からでもあんなにはっきり見えたんだ。そりゃ大きい街だろうとは思っていたけど、実際に街の中に入ってみるとその広さに度肝を抜かれる。
西洋のような建築様式で、いたるところに出店が開かれている。そこで買い物する人もたくさんいて、活発な印象。
「そういえばフレンド欄にるなさんいたよな」
レベルを探すときに開いたフレンドウィンドウにるなさんの名前……ではなかったけど、一人だけ登録されていたので多分るなさんだ。今確認してもグレーの非活性状態なのでログインしてないのだろう。
「さて、どうすっかな……」
圧倒的自由を謳うゲームだ。チュートリアルだと思ってここまで来たが、中にはこの街には来ずにそのままどこか違うところまで行くプレイヤーもいることだろう。
もちろんRPGなのでクエストはある。しかしその数が凄まじい。そこら辺のNPCと会話するだけでクエストに発展することがあるのだ(朱音談)。
「とりあえず町の外に出るか」
着いたばかりだけど、今は観光よりも戦闘をしてみたい。武器を手に取り野を駆けモンスターを狩る。現実ではできない芸当であり、ゲームだからこそできる醍醐味。
武器の損耗はほとんどないし、アイテムも持っていない。死んだとしてもどこかでリスポーンするだろうし、失うものがない今のうちに目いっぱい狩りつくそう。
★
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
「進捗はどんな感じですか?」
「まぁまぁ……と言いたいところだけれど」
「というと?」
「彼、もしかしたらすごい逸材かもしれないわ」
「十三人目にしてやっとですか」
「私にとっては一人目よ」
「まだ増やしますか?」
「当然よ。彼が才能を発揮したとしても、まだ足りない。質だけでは戦いに勝てないし、量だけでも勝てない。質と量、それぞれがなくちゃ」
「そのためにもまずは、彼に成長してもらわないとですね」
「そうね」
白を基調とした部屋で二人の女性がこんな会話をしていることを、今も今後も誰も知らない……。
★
「おかしい……」
モンスターを倒し始めて数十分。多少の被弾はあるが八割くらいは残っている体力を見つつ思案する。
町を出てから今までの間、たくさんのモンスターを倒した。ゴブリンなんかは群れで行動することが多いので一回の戦闘で数体屠れる。だからもう上がっていてもいいはずなんだ。
「レベルが上がらない……?」
RPGとは、敵を倒し経験値を貯め、レベルが上がってさらに強い敵に挑む。そういうものだと思っていた。武器や防具、アイテムもレベルに応じて性能が上がっていき、初期の頃とは見違えるように強くなっている。
しかしこのゲームはレベルが上がらない。攻撃力も上がったように感じない。
さらに言えばスキルもなさそうだ。モンスターを倒すのに使うのは己の武器のみ。普通の攻撃を繰り返すだけ。派手な攻撃スキルも移動に便利なスキルも何もない。いくら現実に近い異世界だとしても、これでは盛り上がりに欠けてしまうような気がする。
「……よし、朱音に聞いてからにしよう」
何かわからないことがあったら朱音に聞けばいいんだ。彼女はこのゲームをやりこんでいるし、そもそも一緒にやりたがってたんだから、十中八九教えてくれるはず。
「……え?」
設定ウィンドウからログアウトボタンを探し、押そうとした。しかし、なんとグレーになっているではないか。え、ログアウトできないの……?
いや、そんなはずはない。このゲームがリリースされてから時間が経っているし、ログアウトできないなんて報告はないはずだ。もしあったらニュースになってる。
本当にログアウトできないのか確かめるために。ぽちっとログアウトボタンを押してみる。
〈この場所でログアウトはできません〉
あ、そゆことね……。
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