第9話 チュートリアル
「うおっ」
さっきまでの衝撃の体験に呆然としていたら、どすんと落とされた。衝撃は無くすけど一瞬だけってことね。
〈たいへーん!あなたを送る場所間違えちゃった!〉
〈でもでも、そんなに街から離れてないみたい!〉
〈どうにか自分の力で街までたどり着いて!〉
そして立ち上がった俺の前に現れる二枚のウィンドウ。一枚にはキャラ作成時のようなセリフが表示されていて、もう一枚には操作方法がスライド形式で。これって戦いのチュートリアルみたいなやつか。
ということは、これはバグじゃなくて仕様。このゲームをプレイしてる全員が体験してるはず……あれ、でも朱音もネットでもそんな話題無かったような。
まぁいい。操作はほかのゲームと同じく、基本思考操作。つまりは現実と同じ感じで動く。攻撃についても武器が当たればダメージ判定になるっぽい。
あとは装備について書いてあるけど……とりあえずは街についてからでいいかな。
「さて、確か街は……っと」
インベントリには初期装備の片手剣とバックラー。装備はこれだけで、身に着けている服は装備品ではないらしい。
落ちているときに見えた街の方向に向かって歩き出す。
「チュートリアルってことはたぶんそろそろ……」
「ギャギュ」
「ギャーギャー」
「お、きた」
行く手を阻むように現れたのは緑色の肌をしたモンスター。不揃いなギザギザした歯と小汚い腰蓑を身に纏った序盤の雑魚。
「ゴブリン!」
インベントリから装備を取り出し、戦闘態勢に移る。チュートリアルとはいえモンスターはモンスター。初戦ということもあるし油断はできない。
「ギャー!」
二匹のうち一匹が飛び出す。手には何も持っていない。素手で襲うつもりのようだ。
冷静に、冷静に。ゴブリンの動きを見て。──そこだ!
「はぁ!」
ゴブリンが攻撃をしようとしたその瞬間を狙って攻撃を繰り出す。ゴブリンの大きさはそれほどでもなく、腰程度の身長しかない。片手剣での攻撃がうまくヒットし、投げ飛ばされるようにゴブリンはもう一匹のゴブリンのほうへ戻っていく。
「これ、すごいな……」
驚くのはその動きやすさだ。思ったとおり、いやそれ以上に動ける。さすがは最上級モデル。
その後もゴブリンとの戦闘は続いたが、一撃も攻撃を受けることなく対処しきった。
「そういえばこのあたりで……」
ゴブリンとの戦闘が終わり、少し進んだところ。そこであることを思い出した。
高高度からの落下中に周りを見渡せる余裕ができたことで、街だけでなく地形についても知ることができた。
例えば、俺が今いるここは森の中で、この森を抜けた先に目指している街がある。そしてその街からはいくつかの道が伸びていて、様々なところにつながっているみたいだった。
そしてその一つがここ、俺がいる森につながっていた。その道があるところだけ木々の間隔が空いていたのでわかりやすい。
「あった」
舗装されているわけではないが、十分歩きやすく整備されている道。この道の先に目指している街がある。
「ゴブリン二体ではレベル上がらないか」
このゲームにレベルがあるのかすら知らないけど、RPGだし多分あるだろう。チュートリアルとはいえ敵を二体倒したのだから、レベルが上がってもいいと思うんだが、どうやらまだ経験値が足りないらしい。
「でもレベル表記ないし……」
装備品を付け替えたりする装備ウィンドウ。持ち物を見たり整理したりできるアイテムウィンドウ。登録したフレンドの情報が見れるフレンドウィンドウ。あらゆる設定ができる設定ウィンドウ。そして常に視界の左端に表示されているHPゲージともう二つ何かのゲージ。おそらく一つはスタミナか何かだろう。戦ってるときに少しずつ減ってたし。
色々探してみたが、どこにもレベルの表示はなかった。
「お、見えてきた見えてきた」
レベルを探しつつ歩いていると、あれ以来一度も戦闘になることもなく街に到着した。
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